国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

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28. 新型コロナウイルス・パンデミック ― フードシステムとは

2020-05-05

2020年5月上旬現在、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 封じ込めのための移動規制により食料安全保障への影響が懸念される中、フードシステムの重要性が浮き彫りになっています。そもそもフードシステムとは何を指しているのでしょうか。2019年、国連食糧農業機関(FAO)・フランス国際開発研究センター(CIRAD)・欧州委員会(European Commission) は、『危機にさらされるフードシステム:新たなトレンドと挑戦(Food Systems at risk: new trends and challenges)』報告書を公表しています。2019年4月に行われた「危機時における食料と農業」イベントにて、来る数十年間に低所得国・低中所得国が直面しうる食料危機を引き起こす要因分析の枠組を構築する必要性が議論されたことが、本報告書作成の背景となったそうです。以下、現在進行中、及びポストCOVID-19時に強靭なフードシステムを構築する上で、本報告書から参考になる概念を紹介しておきたいと思います。

報告書は、冒頭でフードシステムの分析枠組を提示しています。フードシステムは食料生産に関するだけでなく、環境・社会経済的なアウトカムももたらします。フードシステムアプローチは、生産から消費、そしてそれらのアウトカムに至る全ての活動を分析対象とします。

人類史の始まりとともに、フードシステムは家内的な生産・加工・消費形態から、より商業的で特化した生産・加工・消費活動へと展開してきました。とりわけ都市化と農村部における市場経済の発展とともに、ポスト・ハーベスト活動の重要性が高まり、貯蔵や長距離輸送、有用な部分の抽出や利用、栄養価・官能性・衛生面の改善、などを可能にしてきました。今日、これらすべての活動は農村・都市部の双方にて、付加価値・雇用・所得を生み出しています。今日、食料部門は世界で20憶人以上の雇用を生み出す世界でも最大の経済セクターの一つであり、2016年、低所得・低中所得国のそれぞれにおいて、68%、39%の雇用を創出(ILOSTAT)、食料加工・ケータリング・輸送・流通は成長分野となっています。

フードシステム概念は、食料生産・集荷・輸送・貯蔵・加工・ケータリング・流通・調理と消費・廃棄物と資源管理、そして農業投入財のサプライヤー(種子・肥料・パッケージなど)や関連規制の制度・活動を繋ぐチェーンを意味します(Pothukuchi and Kaufman, 2000; FAO 2018ら参考)。 これらの活動や関係者は食料の循環によって密接に関連すると同時に、各部分については農業や食料とは無関係の活動や関係者と密接に関連するサブシステムとも捉えることができます。各サブシステムは独自に進化し、幾つかのサブシステムは相対的により産業化され、フードシステムに変革を及ぼす要因の影響もサブシステム毎に濃淡があるでしょう。

無数の作物、多数の転換プロセス、調理方法や食文化、資本・技術水準などの組み合わせによって、フードシステムは驚くほど多様な様相を示します。この多様性は、地産資源や産品を最大限活用しながら、長年にわたる人類のイノベーションを通じて形成されてきました。フードシステムはさらに不断の進化を続け、外来の産品や経験を柔軟に取り入れてきました。フードシステムには静止の概念はなく、生産・加工・流通・消費・廃棄物マネジメントの異なるモデルを随時組み替えながらダイナミックに進化し続けています。

農業開発方法の一つとして、先進国で普及し、一部途上国でも推進されているのが、特化、機械化、バイオマスサイクルに代わり化石燃料(石炭・石油)と肥料(窒素・リン)・化学薬品(殺虫剤)を大量に使用するモデルです。ポストハーベスト部門では、大規模加工・大規模生産、商品化、貿易のグローバル化、大規模流通システム(スーパーマーケット)が発展してきました。これにより、未だかつてない生産性の向上が可能になり、食料のアベイラビリティ・アクセスの改善が達成されました(経済成長と商品価格の下落により)。しかし、このような工業化された農業(industrialised agriculture)は、環境へのダメージ(汚染、資源枯渇、生物資源喪失、気候変動)と社会的費用(健康的な食生活や所得・持続的な生業機会の不平等、非感染性疾患の増加)も伴います。20世紀において、フードシステムの目的は食料生産の増強であり、それについては大きな成果をあげたと評価されています。しかし同時に深刻な負の外部経済性をもたらしたのも否定できません。フードシステムによるアウトカムにより配慮し、食料栄養安全保障のみならず、包括的な開発と気候変動に強靭な環境にも貢献すべきであるという認識が高まっています。この認識が2015年に国際社会が持続可能な開発目標 (SDGs)設定に合意した背景ともされています。

報告書はまた、とりわけ低所得・低中所得国のフードシステムを変革する主要な要因として、次の6つ – 人口動態(demographic)、生物物理・環境的要因(biophysical and environmental), イノベーション・技術・インフラ(innovation, technology and infrastructure), 社会文化(sociocultural), 経済(economic)、政治(political) 、を挙げています。

全体として、報告書は、以下のセクションから構成されています。

1 概念 (Conceptual framework)

2 気候変動の要因かつ被害者であるフードシステム (Food systems contribute to and are impacted by climate change)

3 環境との統合 (Environmental integrity)

4 包括的な経済開発(Inclusive development)

5 食料安全保障と栄養(Food security and nutrition)

 

参考文献

Dury, S., Bendjebbar, P., Hainzelin, E., Giordano, T. and Bricas, N., eds. 2019. Food Systems at risk: new trends and challenges. Rome, Montpellier, Brussels, FAO, CIRAD and European Commission. DOI: 10.19182/agritrop/00080. http://www.fao.org/policy-support/resources/resources-details/es/c/1257850/

 

(以下、報告書で引用されていた文献)

FAO. 2018. Sustainable food systems. Concept and framework. Rome. 8 pp

ILOSTAT, 2019. Employment by sector. January 2019 

Pothukuchi, K. & Kaufman, J.L. 2000. The food system: a stranger to the planning field. Journal of the American Planning Association, 66(2), 113–124

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)