862. 持続的開発推進における科学の役割

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)は2015年に採択され、2030年を達成期限としています。今はその折り返し地点にあり、今週ニューヨークで開かれている国連総会ではSDGsをテーマとしたサミットが開催されました。

サミットに先立ち、途上国および先進国出身の自然科学・社会科学の多様な分野を代表する科学者らが中心となってとりまとめた報告書（“Times of crisis, times of change: Science for accelerating transformations to sustainable development”）は、危機・変革の時代において、持続的な開発を推進する上で、科学の果たす重要な役割を強調しました。

報告書は、断片的な変化にとどまるようでは、2030年はおろか2050年までに17のSDGsすべてを達成することは不可能であると断定し、どんな国・社会・人々を取り残すことなく、世界レベルでの社会全体の変革を推し進める必要があるとします。

科学はイノベーションを促し、負の影響を解消するためのエビデンスを提供することで、持続的な開発を推進する中心的な役割を果たします。

報告書は、大学・政策立案者・資金提供者らに対し、2030年持続可能な開発目標の達成に向け、とりわけグローバルサウスを対象とした研究支援の拡大を求めます。若者を含む異種多彩で分野横断的なアクターが繰り出す多様なコンテクストにおいて、科学による透明性・包括性・学際性（トラ ン ス デ ィ シ プリナ リー）を確保することが重要です。

相互連関的かつ体系的なアプローチがカギを握る

個々のSDGs目標間の相互連関を理解することは極めて重要です。例として、政策決定者は、複雑なトレードオフを見極め、国際的な波及を回避する政策立案をしていくことが求められます（例として、輸出向け製品の製造過程で自国での炭素排出量が増加するなど）。

研究者によれば、SDGs間において、相乗効果がレードオフ状態を上回るケースの方が多いとし、特に貧困削減・ヘルスケア・教育・ジェンダー・水と衛生、クリーンエネルギー・パートナーシップ分野への投資はより高い相乗効果が期待されるとしています。例えば、太陽光発電への投資は手ごろなクリーンエネルギーへのアクセス（SDG 7）を直接的にサポートするにとどまらず、電力供給を通じ室内空気環境の向上や電気照明による学習環境の改善を通じて学習時間の増加・教育の促進（SDG  4）に貢献できることがエビデンスで裏付けられています。

しかしながら実際の相乗効果とトレードオフの大小は状況によって異なります。したがって、地域固有のニーズを充足しトレードオフに対応するために、地域のコンテクストにおけるSDGs目標間の相互連環の理解が求められます。

変革に向けた有望な介入の加速化と強化

報告書は持続可能な開発に向けて様々な社会的アクターがどう貢献できるかについての方針（ガイダンス）をまとめました。とりわけ、食料システム、ウェルビーイング、エネルギー分野におけるCO2削減取り組みへの介入、といった分野は社会システム全体に影響（systemic effect）を及ぼすことから、科学者や政策策定者に対し、ガバナンス、科学技術、ビジネスと金融、個人及び集団行動、変革のための能力開発（capacity-building）、を駆使していくことが求めました。

全ての国にとり、能力構築（capacity-building）は変革への出発点としても重要で、これには科学者も政策立案者も、あらゆるレベルの行政、民間、市民社会に属するすべての人が該当します。そのためには、人々の科学的リテラシーを高め、科学データとエビデンスに対する信頼を回復させ、将来を見据えた戦略的投資が求められます。

報告書は、地域レベルのアクションと国際協力をつなぐうえで、各国に対し、地方自治体、企業・業界団体、投資家など社会全体で連携し、SDGs達成に向けたアクションのための国家計画（National Plan）またはそれに準ずる計画の策定を急ぐよう改めて訴えました。

（参考文献）
“Times of crisis, times of change: Science for accelerating transformations to sustainable development”, https://sdgs.un.org/sites/default/files/2023-09/FINAL%20GSDR%202023-Dig…　

(文責：情報プログラム　トモルソロンゴ、飯山みゆき)