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54. Nature Communication ― 環境保全と持続可能な開発推進におけるビックデータの役割

2020年4月24日、Nature Communications誌は、環境保全と持続可能な開発推進におけるビックデータの役割に関する論考を発表しました。ビックデータは、環境が直面する厳しい現状を明らかにする一方、「せめてもの救い (bright spot) 」とその条件についても炙り出すことが可能です。ビックデータ解析は、持続可能な開発推進の努力と連携することで、環境保全に有効です。

短時間で大量のデータ取得・加工・解析・視覚化を可能にする技術の統合により実現したビックデータ革命は、過去50年間に、入手可能なデータの種類を爆発的に増加させてきました。生態・地球物理科学におけるデータ集積の進展は、研究者がミクロレベルからグローバルレベルにおける環境変化を発見・解析し、その中でも人為的要因による事象を切り離して分析することを可能にしてきました。このため、ビックデータ応用においても、環境の現状把握・トレンド分析は注目を浴びてきました。

ビックデータ解析の進歩は、地球環境の変化、多くの場合予測以上の劣化を明らかにしています。例えば、NASAと欧州宇宙機関の共同研究は、1992年から2017年の間に南極氷床で相当量(2720±1390 MG)の氷が失われたことを示しました(7.6 ± 3.9 mmの海面上昇に相当)。その僅か数年前には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、南極表面の物質収支の増加、従って世界平均海面上昇の抑制を予測するモデル予測に中程度の信頼を置いている、と述べていたのとは反対のエビデンスです。同様に、絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト(Red List of Ecosystems)を編纂するにあたり、エコシステムの危機を評価する多くのエビデンスを活用する手法によって、危機的な状況を炙り出しています。例えばアメリカ・カリブ諸島地域では、85%の森林面積と80%の森林類型が潜在的に絶滅の危険にさらされています。環境の危機的状況を明らかにする手法開発の展開には目を見張るものがあります。

一方、ビックデータの分析は、全体的な環境劣化のパターンの中において「せめてもの救い(bright spots)」を浮かび上がらせ、政策介入などの要因を明らかにしています。例えば、世界全体で森林面積は急激に減少していますが、ブラジルでは2012年までの12年間、主に進歩的法制度のおかげで森林減少は減速しました(2019年の政権交代でトレンドは逆転していますが)。同様に最近の衛星データの分析は、中国とインドで観察される大規模な緑化が人による土地管理に起因することを明らかにしました。中国の緑化の大部分はエコシステムサービスへの支払い(payments for ecosystem services)などを通じた政府の野心的な植林・森林保護政策によるものです。生物物理学的な要因が緑化の背景となる場合もあります。例えばビックデータ解析により、過去40年間のチベット高原における降雨量の増加が植生の緑化に繋がったことが明らかになりました。この場合、緑化は炭素隔離には望ましいですが、従来のエコシステムと種の多様性には攪乱要因ともなり得ます。全体的に、1993年から2009年の間、先進24か国において、農村都市移動や環境保護プログラム等により平均的な人口圧は減少傾向にありますが、世界的な環境劣化のトレンドを逆転させるまでには至っていません。

ビックデータの取得と分析は、持続可能な開発の課題に応えるため、環境意思決定と連動する必要があります。ビックデータ解析は、地球の緑化プロセスの記録から違法な資源搾取の検出まで、急激な環境変化の詳細なエビデンスの収集を可能にしています。環境と我々自身を破壊から守るための時間を節約するために、ビックデータと持続可能な開発アジェンダ間で連携が必要になります。

 

参考文献

Runting, R.K., Phinn, S., Xie, Z. et al. Opportunities for big data in conservation and sustainability. Nat Commun 11, 2003 (2020). https://doi.org/10.1038/s41467-020-15870-0

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)