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922. タンパク質転換

922. タンパク質転換
本日は、PNAS に掲載された論文(Mylan, Andrews, and Maye 2023)をご紹介します。現在のフードシステムは持続不可能であるという認識が近年広く定着してきており、根本的な変化を求める声も高まっています。多くの場合、畜産の役割がこれらの議論の中心であり、動物由来の食品が植物ベースの代替品または「代替タンパク質(alternative proteins)」に置き換えられる「タンパク質転換(protein transition)」の可能性に関心が集まっています。
この転換は持続可能性に影響を及ぼす可能性を秘めていますが、関連技術がどのように発展してきたのか、またどのような可能性を秘めているのかという点は依然として十分に精査されていません。本論文では、1) 過去 30 年間に代替タンパク質のイノベーションがどのように進んできたか、2) 代替タンパク質のイノベーションが近年加速している理由は何か、の 2点に注目します。
これらの質問に答えるために、この記事では、4種類の代替タンパク質をとりあげます。
1)植物性の代替肉(Plant-based meat):大豆などの原料から加工技術を駆使して肉のような食感を作り出す。1950年代に商品化され、段階的に改良が加えられた。
2)単細胞タンパク質(Single Cell Proteins (SCPs)):藻類、酵母、菌類、細菌を発酵させて作成されたもので、クォーン(Quorn)は商業化に成功した数少ないものの1つ。
3)精密(細胞)発酵(Precision (cellular) fermentation):発酵と遺伝子工学を組み合わせ、カゼインやホエイなど動物由来のタンパク質を微生物が生産することができる。
4)培養肉(Cultured meat):細胞工学を用いて、生きた動物から採取した細胞を培養し筋肉組織を生成する。2010年代に急速に発展、ハンバーガーやナゲットなどの製品に。
これらの技術開発と普及、進捗、推進力、障壁を分析したところ、特に大手食品企業の関与が大きいことが浮き彫りになっています。最近の発展は、畜産システムに対する圧力の高まり、特に気候変動と肉中心の食事との関連性についての科学的合意と社会的認識度向上と並行して、企業の代替タンパク質への関与が増加してきた流れと一致しているのです。
ただ、一部の代替タンパク質では政治的、規制的、文化的な障壁が依然として残っており、タンパク質転換の見通しに影を落としています。
(参考文献)
Mylan, J., Andrews, J., & Maye, D. (2023). The big business of sustainable food production and consumption: Exploring the transition to alternative proteins. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(47), e2207782120. https://doi.org/10.1073/pnas.2207782120
(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)