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961. 転換点に関する最近の研究

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961.  転換点に関する最近の研究

気候変動に関する議論では、人為的な活動のせいで、地球が次第に不可逆性を伴うような大規模な変化を伴う転換点(tipping point-注:温室効果ガスなどの変化が少しずつ蓄積していった結果、ある時点を境に劇的な変化を起こす現象)に達しつつあるとされています。地球システムにおいて、ティッピング・ポイントを超えてしまいそうな大規模なサブシステム(ティッピング・エレメント:“tipping element” )として、グリーンランドの氷床融解をはじめ、永久凍土の融解、南極氷床の融解、アマゾン森林破壊、大西洋海洋循環の崩壊、などが挙げられています。

こうした転換点は、一見バラバラに見えますが、一つのティッピング・エレメントが転換点に達することで、その他のサブシステムに遠隔相関で波及して、ドミノ倒し的な影響をもたらし、気候システムに予期しないような影響を及ぼす可能性が指摘されています。その仕組みについてはまだわからないことも多いですが、最近、幾つかのティッピング・エレメントの転換点に関する研究が発表されました。

まず、大西洋南北熱塩循環(AMOC: Atlantic Meridional Overturning Circulation)は、海水の水温と塩分による密度差によって駆動されており、熱帯の暖かい海流が北大西洋に運ばれ、冷却によって重くなり低層まで沈み込んだあと再びゆっくりと上昇して表層に戻るという循環で、世界の気候に大きな影響を及ぼしています。しかし、地球温暖化によって、北極やグリーンランドの海氷が融解して低密度の淡水が流れ込み、表層の塩分濃度が下がり密度が軽くなった海水の沈み込む力が弱まることにより、深層循環が一時的であれ弱まるのではないかと考えられています。  最近Science Advances誌で発表された論文は、大規模なシミュレーション分析を行い、北大西洋における淡水の流入により、AMOCの崩壊が今まで考えられていたよりも急激に起こりうる可能性を示しました。

また、先日、Nature誌で掲載された論文は、ティッピング・エレメントの一つ、アマゾン熱帯林がもう転換点に達しかねないと警鐘を鳴らしました。アマゾン熱帯林は、地球陸域の生物多様性の10%以上を占め、世界の二酸化炭素排出の15-20年分に等しいカーボンを貯留し、地球の気候の安定化に繋がる純冷却効果を有していきました。しかし今や、かなり隔離された地域も温暖化・極度の干ばつ・森林破壊・森林火災により未だかつてないストレスにさらされています。長年維持されてきた森林と環境条件の間のフィードバックのシステムは、今やエコシステムの強靭性を弱める新たなフィードバックにとってかわられようとしています。論文は、様々な攪乱要因に関する情報を踏まえ、2050年までにアマゾン熱帯林の10%から47%近くが予期しないエコシステムの変異をもたらし、気候変動を悪化させかねない状況に陥る可能性を指摘しました。

 

海流によって熱・栄養分を循環させ、地球システムの安定化に貢献してきた北大西洋の海洋循環の弱まりは世界中の熱循環を劇的に変化させかねず、アマゾン熱帯林の崩壊は生物多様性喪失・気候変動に大きな影響を及ぼしかねません。複雑な地球システムの安定的な機能に依存してきた私たちの社会は、人新世における気候変動・環境危機により、未知のリスクに直面しているといえます。

 

(参考文献)
Van Westen R. M. et al. Physics-based early warning signal shows that AMOC is on tipping course. Science Advances. Vol 10, Issue 6. https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk1189 

Flores, B.M., Montoya, E., Sakschewski, B. et al. Critical transitions in the Amazon forest system. Nature 626, 555–564 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06970-0

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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