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617. 1.5℃を超える温暖化は複数の気候転換点を誘因する可能性

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617. 1.5℃を超える温暖化は複数の気候転換点を誘因する可能性

地球が次第に制御不可能で不可逆的な変化を伴う転換点(tipping point-:温室効果ガスなどの変化が少しずつ蓄積していった結果、ある時点を境に劇的な変化を起こす現象)については、このPick Upでも何度か取り上げてきましたが、最新のエビデンスを整理した論文がScience誌に公表されました。

気候の転換点(Climate tipping points ―CTPs)は、それらが引き金となり、地球システムに不可逆的な変化を引き起こすとされており、科学的・政治的に世間の関心を次第に集めるようになっています。論文著者らは、地球システムにおいて重要な機能を持つ気候サブシステムであるティッピング・エレメント(“tipping element” )について、どの程度の気温上昇・時間的スケールによって転換点を引き起こしうるかを評価しました。

より具体的には、地球システムの機能に極めて重要な役割を果たす世界的に重要な9つの(global ‘core’ tipping elements)ティッピング・エレメントに加え、人類および地球システムに重要な役割を果たす地域レベルでの重要な7つの(regional ‘impact’ tipping elements) ティッピング・エレメントについて、それらが転換点に達する閾値について評価しました。現在、世界は既に産業革命以来1.1℃気温が上昇していますが、5つのCTPsの下限に達しているとされます。気温上昇を1.5-2℃に抑えるというパリ協定の温暖化範囲内でも、グリーンランドと西南極の氷床融解や低緯度地域でのサンゴ死滅に永久凍土融解を含む、6つのCTPsが引き起こされかねません。現状維持路線で予測される2.6℃の温暖化では、さらなるCTPsが予測されます。

論文は、こうした評価を気候変動下で迫る危機を裏付ける科学的エビデンスであるとし、複数の転換点が同時に起こってしまう危機を回避するための気候変動緩和に向けた緊急行動の必要性を訴えました。

 

(参考文献)

Lenton, T. M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 105, 1786–1793 (2008). https://www.pnas.org/content/105/6/1786 

Lenton TM et al. COMMENT Climate tipping points — too risky to bet against. 27 November 2019 Correction 09 April 2020  Nature 575, 592-595 (2019) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-019-03595-0

David I. Armstrong McKay et al, Exceeding 1.5°C global warming could trigger multiple climate tipping points, Science (2022). https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn7950

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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