Pick Up

623. 国連食料システムサミットから1年

関連プログラム
情報

 

623. 国連食料システムサミットから1年

ちょうど1年前の2021年9月23日、国連食料システムサミットが開催されました。

それから1年、ロシアによるウクライナ侵攻によって生じた世界食料価格高騰の懸念は、国連・国際社会の介入による黒海からの穀物輸出再開により少し落ち着いてはいます。

一方、短期的な供給寸断にとどまらず、肥料価格の高騰、そして世界各地で報告される異常気象は、中長期的な食料需給・物価動向に反映され、脆弱な社会層の食料栄養安全保障を脅かし、ショックの波及経路という食料システムの役割が改めて浮き彫りになっています。持続的かつ強靭な食料システムの構築は、これまで以上に重要になっています。
 

今日は、昨年にPick Upで取り上げた記事から、食料システム議論および持続的で強靭な食料システム構築における科学技術イノベーションの役割について、振り返っておきたいと思います。

 

食料システム或いはフードシステムアプローチは、食料生産だけでなく、生産から消費、そしてそれらのアウトカムに至る全ての活動を分析対象とし、環境・社会経済的なインパクトも対象にする研究分野です。

20世紀の中盤、食料システムにおいて、飢饉の撲滅と人口増を見越した食料生産の増強が課題となりました。その手段の一つとして先進国と一部途上国に普及したのが、特化、機械化、バイオマスサイクルに代わり化石燃料(石炭・石油)と肥料(窒素・リン)・化学薬品(殺虫剤)を大量に使用するモデルです。ポスト・ハーベスト部門では、大規模加工・大規模生産、商品化、貿易のグローバル化、大規模流通システム(スーパーマーケット)が発展していきました。これにより、未だかつてない生産性の向上が可能になり、食料のアベイラビリティ・アクセスの改善が達成されました。しかし、飽食ともいえる状況は、環境へのダメージ(汚染、資源枯渇、生物資源喪失、気候変動)と社会的費用(健康的な食生活や所得・持続的な生業機会の不平等、非感染性疾患の増加)も伴うようになりました。近年、食料システムを、地球・人類の健康への影響にもより配慮し、持続可能な開発と気候変動対策にも貢献するよう転換すべきという認識が高まっています。

同時に食料システムは、無数の作物、多数の転換プロセス、調理方法や食文化、資本・技術水準などの組み合わせによって、驚くほど多様な様相を示します。この多様性は、地産資源や産品を最大限活用しながら、長年にわたる人類のイノベーションを通じて形成され、生産・加工・流通・消費・廃棄物マネジメントの異なるモデルを随時組み替えながらダイナミックに進化し続けています。

効率的でありながら誰も取り残さず、ショックに対する強靭性を有し、かつ持続的な食料システムの構築に成功するか否かは、食料システムの多様性に配慮しながら、科学・技術・イノベーション(science, technology and innovation)を活用できるかにかかっています。

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

関連するページ