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475. アフリカにおける農業生産性の向上と食料安全保障のための持続可能な技術開発

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475. アフリカにおける農業生産性の向上と食料安全保障のための持続可能な技術開発

世界の食料需要は、予測される世界人口の増加を反映し、大幅に増加することが予想されます。4人に1人が栄養失調状態にあると言われ、2050年には人口が倍増すると予測されているサハラ砂漠以南のサブサハラ・アフリカ(Sub-Saharan Africa, SSA)において、量と質の両面から食料安全保障を実現することは、喫緊の課題となっています。一方、SSAでは、土壌の肥沃度が低く、環境条件も悪いため、農業生産のポテンシャルが十分に発揮されていません。また、気候変動や感染症に脆弱な地域でもあります。国連が掲げる17の「持続可能な開発目標」(SDGs)の第2目標は、すべての国が「飢餓ゼロ」を達成することを求めています。

国際農研において第4期中長期計画期間(2016〜2020年度)に実施された農産物安定生産プログラム「アフリカ食料」プロジェクト では、国内外の研究機関等との共同研究を通じて、SSAの食料安全保障を改善するために、コメ増産、地域作物利用、耕畜連携の3つを重点分野として、持続可能な技術開発を推進してきました。2022年1月、それらの活動や成果についてまとめた総説 Development of Sustainable Technologies to Increase Agricultural Productivity and Improve Food Security in Africa JARQ (Japan Agricultural Research Quarterly) に公表しました。この総説では、SSAにおける農業の技術的課題・問題点を紹介し、それに対するプロジェクトの取組を説明しています。

良好な栄養状態は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する防御に不可欠な要素です。また、SSAを含む脆弱な低所得開発途上地域へのCOVID-19の感染拡大による社会的・人道的危機に加え、世界の食料・栄養確保の悪化も懸念されており、地球規模の食料生産の安定化と栄養不良の解消に向けた取組がますます重要となっています。その一方で、「窒素とリンの循環」など、農業生産の拡大に伴う多くの環境システムやプロセスが安全な地球の限界(プラネタリーバウンダリー)を越えてしまうなどの問題も顕在化した今、食料システムの世界的な変革は緊急の課題です。持続可能な農業システムを確立するためには、環境に悪影響を与えることなく、容易に入手でき、効果的で、農家の食料生産性の向上につながる技術を開発する必要があります。開発された技術の普及を促進し、研究成果を最大化することで、SSAを中心とした開発途上地域における農産物の生産性と栄養の両方を向上させ、貧困撲滅と平和で健全な社会づくりに貢献することが求められています。

国際農研では、この総説で紹介したようなこれまでの活動をさらに発展させ、昨年4月に第5期中長期計画期間(2021〜2025年度)がスタートしています。今年は8月にチェニジアにおいて第8回アフリカ開発会議(TICAD8) も開催されることから、改めてアフリカへの注目が集まると考えられます。食料プログラムの「アフリカ稲作システム」プロジェクトと「アフリカ畑作支援」プロジェクトにおいて、外部資金SATREPSマダガスカル等も活用しながら、アフリカにおける食料・安全保障に貢献するべく、国内外の研究機関等と協力して研究を継続発展させていきます。

 


(参考文献等)

Nakashima K, Yanagihara S, Muranaka S, and Oya T (2022). Development of Sustainable Technologies to Increase Agricultural Productivity and Improve Food Security in Africa. JARQ 56 (1):7-18, https://www.jircas.go.jp/ja/publication/jarq/2020j10

 

第4期中長期計画
【農産物安定生産プログラム】
熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b
【アフリカ食料プロジェクト】
アフリカの食料問題解決のためのイネ、畑作物等の安定生産技術の開発https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/b1

第5期中長期計画
【食料プログラム】
新たな食料システムの構築を目指す生産性・持続性・頑強性向上技術の開発https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob
【アフリカ稲作システムプロジェクト】
アフリカのための稲作を中心とした持続的な食料生産システムの構築https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b5
【アフリカ畑作支援プロジェクト】
アフリカ小規模畑作農業の生産性・収益性・持続性を向上させる畑作システム支援ツールの構築に向けた技術開発 https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b6
【SATREPSマダガスカル・Fy Vary Project】
肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上 https://www.jircas.go.jp/ja/satreps

その他
外務省:TICAD8のチュニジア開催https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008594.html

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000721.html

 

扉絵説明:
左:増産が求められるイネ(ガーナ)(撮影:辻本泰弘)
右上:地域の人々の食生活を支えるササゲ(左、ナイジェリア)とヤム(右、ベニン)(撮影:村中聡)
右下:人々の栄養改善への貢献が期待される酪農(モザンビーク)(撮影:大矢徹治)

 

(文責:食料プログラム 中島 一雄、生物資源・利用領域 柳原 誠司、生産環境・畜産領域 村中 聡・大矢 徹治)

 


 

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