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327. 第9回太平洋・島サミット(PALM9)と熱帯島嶼環境保全

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327. 第9回太平洋・島サミット(PALM9)」と熱帯島嶼環境保全

2021年7月2日に、第9回太平洋・島サミット(PALM9)がオンラインで開催されます。太平洋・島サミットとは、1997年から3年ごとに日本で開催され、太平洋島嶼国14か国、仏領2地域、オーストラリアとニュージーランドが参加する国際会議です。太平洋島嶼国は、「国土が狭く、分散している」、「国際市場から遠い」、「自然災害や気候変動等の環境変化に脆弱」などの困難を抱えており、太平洋・島サミットではこうした課題を乗り越えて、地域の安定と繁栄のために首脳レベルで議論が行われてきました。

熱帯島嶼では熱帯雨林・マングローブ林や豊かなサンゴ礁生態系が形成され、人々は自然の恩恵を受けながら生活を営んできました。また、これらの生態系は生物多様性や地球の炭素循環にとって重要な役割を果たしてきました。しかし、近年、森林やマングローブの伐採、農地における化学肥料の過剰施用による窒素の流出、降雨による傾斜地農地からの土壌流出などの環境問題が顕在化し、サンゴ礁や海域環境に深刻なダメージを与えています。

国際農研 熱帯・島嶼研究拠点(熱研)は沖縄県石垣市にあり、亜熱帯島嶼という環境下で、土壌浸食計測プロットやライシメーターといった研究設備を用いて、数々の技術開発を行ってきました。これまでに、太平洋島嶼国であるパラオやマーシャル諸島、東南アジアのフィリピンを対象に、熱研の施設と立地条件を最大限に活用しながら、石垣島と現地で研究活動を行い、数々の研究成果を挙げてきました。最近では熱研とパラオで得られた研究成果を取りまとめた、「Agriculture in Palau」というマニュアルを出版しました。第4期中長期計画での交付金による成果を取りまとめたこの本には、傾斜地の土壌流出の危険度に応じて、土壌流出を抑制しつつ農業生産を行うための技術が記載されており、パラオの農家、研究者、そして行政機関に活用されることが期待されています。その他の研究成果として、以下の技術開発を研究成果情報として国際農研のHPに公表しています。

●サトウキビの収量を維持しつつ窒素負荷量を減らすことができる肥培管理技術の開発(令和2年度
●収量を向上させ、かつ土壌保全を実現する環境保全型タロイモ栽培技術の開発
令和2年度
●環礁島の湛水レンズを保全するための対策技術の提案(平成22年度平成30年度
●フィリピンのサトウキビ栽培における窒素負荷量の推定(平成29年度
●フィリピンにおける土壌浸食の発生地域の抽出技術の開発(平成26年度
●石垣島の宮良川における土壌・窒素・リンの流出量の推定(平成15年度

2021年4月から始まった第5期中長期計画における熱帯島嶼環境保全プロジェクトでは、これまでのプロジェクト成果を踏まえ、熱帯島嶼の山・里・海が一体となって、環境負荷軽減技術の開発と資源循環を行うことにより、山から海までの健全な物質循環の構築を目指しています。

日本もまた島嶼国で、山から海までが物質循環を通じて密接につながっています。森は海の恋人と言われるように、山や里の環境の悪化は海にも影響します。山から海までが短い距離で連続する島嶼では山・里・海が一体となった取り組みが非常に重要となります。

参考文献

(文責:熱帯・島嶼研究拠点 安西俊彦)

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