ガリー侵食の発生域を衛星データの画像解析によって抽出する
フィリピン・ルソン島北部カガヤン川沿いの丘陵地帯において、近年顕著になったガリー侵食の発生実態の把握のため、高空間分解能衛星データの画像解析によりガリー発生域を抽出する手法を開発する。衛星データの利用により、現地調査が行われない地域を含めた広域のガリー侵食の分布を迅速に把握する。
背景・ねらい
傾斜地では強雨により地表にある土壌が侵食され流れ出るが、谷状に表土がえぐられた現象がガリーであり、その発生により農地における作業性や生産性が低下する。ガリー侵食の発生域を把握するため、従来は現地地上調査や航空写真の撮影等が行われてきたが、広域を対象に既存データを利用するなどして迅速に把握する手法として、地上分解能が1m以下となる高空間分解能衛星データの活用が考えられる。ただし、衛星画像上にはガリー侵食域と見かけ上類似する他の地物があるため、こうした類似物を除外してガリー侵食域のみを抽出する解析技術を開発する。
成果の内容・特徴
- フィリピン・ルソン島北部の丘陵地において、近年ガリー侵食が顕著に見られる地域があり(写真1)、解析対象地域として選定する。
- 耕作地がほぼ裸地化した時期に観測された空間分解能が0.5mであるWorldView衛星パンクロマティックデータ画像を用い、エッジ抽出によりガリー侵食域の候補となる線状の地物を判別し、さらに、ガリー以外の地物を除外して、ガリーのみを抽出する手法を開発する。地形条件(斜面方向に沿っていない個所、尾根上の個所)、土地利用条件(森林域)、画像テクスチャ(分散値、均質性、コントラスト、異質性、エントロピーが一定の範囲を持つ個所)、輝度値(周囲に比べて高い個所)に基づく地域を抽出し、除外すべきマスクデータとする。
- ガリー侵食域を保持しつつ、除外域を適切に識別し、ガリー侵食が発生している場所と影響域の空間的広がりが示され、地理座標系を有したデジタルデータとして整備される(図1)。
- フィリピン土壌水管理局が選択的に実施したガリーの測量データと比較したところ、抽出率の平均値は63.4%であるが、衛星観測時に地表面が十分に裸地化していない場合や、ガリーによる影が明瞭に見え難い場合に抽出率が低下するケースはある(図2、表1)。一方で、現地測量が行われなかったガリーも抽出され、ガリーの広域分布状況の把握に有効である。
成果の活用面・留意点
- ガリー発生域の分布を示す情報を整備することで、ガリーの発生・発達を誘引する条件の分析、また、土地劣化の空間的な広がりの把握や生産への影響の評価が行え、地域レベルの土壌保全と生産性の維持に資する土地利用計画に参照される情報が提供できる。
- 世界中のあらゆる地域を対象とした高空間分解能衛星データの蓄積が進んでおり、傾斜地における土地劣化をグローバルに監視する技術としての活用が期待される。
- 衛星観測時の地表面の被覆状況が裸地状でなく、ガリーによる陰影が明瞭に現れない場合等では、ガリー侵食の抽出精度が低下する。また、除外域の閾値の範囲を狭めると抽出率は上がるが、誤分類が増加するため、状況に応じたパラメータの調整が必要である。
具体的データ
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写真1 ルソン島におけるガリー侵食発生状況(2010年11月23日撮影)
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図1 ガリー侵食域抽出結果(赤色部)
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図2 選択して地上測量したガリーの位置(矩形部は、図1の範囲)
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表1 選択して地上測量したガリーを対象とする本手法によるガリー抽出率
抽出率:ガリーが実在する測量された始点と終点を結ぶ区間において、ガリーとして抽出された領域(点の集合として帯状に分布)が一致する程度を目視判読により4段階に評価し、点数化、および、線分長の重み付け平均化により算出
本線:下流部から最も明瞭に伸びるガリー
支線:本線に合流する樹形状の枝の部分
- Affiliation
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国際農研 社会科学領域
- 分類
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研究B
- プログラム名
- 予算区分
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科研費 » ガリー侵食
- 科研費
- 研究期間
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2014年度(2011~2014年度)
- 研究担当者
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内田 諭
南雲 不二男 ( 生産環境・畜産領域 )
科研費研究者番号: 20399372 - ほか
- 発表論文等
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内田・南雲 (2015) システム農学 31(1) :11-20
- 日本語PDF
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- English PDF
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