改良部分耕と表土被覆の組み合わせによる環境保全型タロイモ栽培技術
傾斜地において、携帯型深穴掘り器や深溝掘り機を用いた部分耕と有機物マルチを組み合わせてタロイモを等高線栽培すると、慣行(全面耕起、マルチ無し)に比べて土壌侵食量が80~91%減少し、タロイモが3倍程度増収する。
背景・ねらい
タロイモ(Colocasia esculenta (L.) Schott)は太平洋島嶼地域の主要作物として、主に海洋沿岸に近い低湿地帯で伝統的に栽培・維持されてきた。しかし近年の気候変動に伴う海面上昇等がタロイモ圃場への塩分の侵入を引き起こし、より海岸から離れた傾斜地でタロイモを栽培する必要が生じている。しかし太平洋島嶼高島における火山岩由来の土壌は、表層の土壌有機物層が薄く、肥沃度が極めて低い酸性風化土壌である。そこでタロイモの肥培管理として、下層土の土壌改良と土壌保全を実現する環境保全型栽培技術の開発に取り組む。具体的には、耕起の違い(深溝耕、深穴耕の2種の部分耕起と全面耕起)とマルチの違い(ジュウロクササゲ、サツマイモ混作による被覆、有機物マルチ)の組み合わせにより、斜面で等高線栽培したタロイモの収量と傾斜圃場からの土壌侵食、下層土の土壌改善に及ぼす影響を明らかにし、最適な栽培方法を見出す。
成果の内容・特徴
- 試験はパラオ共和国バベルダオブ島内のパラオコミュニテイカレッジ農場内で8月から翌年5月にかけて行った。圃場の斜度は8~13°、作付け期間中の降雨量は2,800 mmであった。
- 部分耕の改良技術として携帯型深穴掘り器と深溝掘り機を導入する(図1)。45 cmの深さに掘削した穴の中へ堆肥300 gと掘削土壌を混和しながら25 cmの高さまで埋め戻した後、タロイモ苗(品種名Ngesaus)を植え付ける。
- 改良部分耕と有機物マルチ(ビンロウ葉を使用)の組み合わせでタロイモを栽培すると、慣行(全面耕起、マルチ無し)に比べてタロイモが3.2~3.6倍(1.8~2.0 t ha-1)増収する(図2)。
- 携帯型深穴掘り器を用いた場合、タロイモの一個重が2.6倍重く(256 g個-1)なる。
- 上記の組み合わせにより、土壌侵食量が、慣行に比べて80~91%(35 m3ha-1から3.1~6.9 m3ha-1)減少する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本技術は、パラオ共和国バベルダオブ島のオキシソル土壌で効果が検証されたが、他の太平洋島嶼高島の傾斜地で栽培を行う場合は、別途本技術の適用効果を確認するための試験を行う必要がある。
- 携帯型深穴堀り器の価格は約6万円と比較的安価で軽量であるため扱いやすい。深溝堀り機は約177万円と高価だが、自走式で傾斜10°程度まで作業可能である。
- 携帯型深穴掘り器や深溝掘り機を用いて掘削する穴や溝の深さは、植え付ける苗の大きさや改良すべき土壌の物理化学性を考慮しながら、埋め戻す堆肥等の量を決めることが望ましい。
- 有機物マルチは現地で入手可能で腐食しにくく、地面を全面被覆しやすい素材を用いる。
- 混作の作物選定にあたって、タロイモと競合しないよう注意する必要がある。
具体的データ
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左;ハンデイタイプのエンジン付きオーガー(AGZ5010EZ, ZENNOH, Japan)にドリル(直径15 cm、長さ80 cm)を装着し使用。
右;自走式トレンチャー(NF-827 II, KAWABE, Japan)。 -
*, **:慣行との間に有意差(*:p < 0.05、**:p < 0.01)あり(Dunnett検定)。
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侵食土壌量を測定するため、試験区(傾斜度8~13°の圃場)を木枠で囲み、下部に土壌トラップを設置。
**:慣行との間に有意差(p < 0.01)あり(Dunnett検定)。
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » アジア・島嶼資源管理
- 研究期間
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2020年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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大前 英 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
見える化ID: 001794Nwe YY ( パラオコミュニティカレッジ )
- ほか
- 発表論文等
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Nwe YY, et al. (2021) Tropical Agriculture and Development(印刷中)
- 日本語PDF
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2020_A07_A4_ja.pdf1.13 MB
2020_A07_A3_ja.pdf852.89 KB
- English PDF
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2020_A07_A4_en.pdf347.19 KB
2020_A07_A3_en.pdf348.45 KB
- ポスターPDF
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2020_A07_poster.pdf420.96 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。