ウエスタンブロッティング法の改良によるパパイアのウイルスタンパクの検出

要約

ウエスタンブロッティング法を改良し、これまで不可能であった、パパイア感染葉から直接病原ウィルスタンパクビジュアルに検出する方法を確立した。

背景・ねらい

   パパイアのウイルス病は果実に病斑を生じ商品価値を著しく損なうため、沖縄以南の熱帯アジア地域をはじめ世界中で大きな問題になっている。近年アメリカでウイルス遺伝子を導入したパパイアが作製され、世界初の抵抗性品種として注目されたが、この組換えパパイアが、アジアのウイルス株には抵抗性を持たないことが明らかになった。この原因として、アジア地域における病原ウイルスの多様性、特に抵抗性に関与しているウイルス外被タンパク質(CP)の分子量の変異が予想され、これらを明らかにするために、感染パパイアや組換えパパイアからウイルスCPをビジュアルに検出する手法が必要となった。ところが、タンパク質を検出する血清診断法として広く用いられているウエスタンブロッティング法では、パパイアからCPを検出することはできず、これまでは病原ウイルスを他の植物に接種して、その感染葉からCPの検出を行っていた。しかしこの方法では、ごく少量の試料しか取り扱えず、ウイルスの増殖に長期間を要し、温室設備も必要なため、開発途上国などでは研究を行えないという欠点があった。
   そこで本研究では、これまで不可能であった、パパイア感染葉から直接ウイルスCPをビジュアルに検出する方法を確立し、設備のない途上国でも実施可能な手法を確立した。

成果の内容・特徴

  1. ウエスタンブロッティングの従来法では、パパイア感染葉からパパイア奇形葉モザイクウイルス(PLDMV)を検出することはできなかった(図1 lane P)。パパイア輪点ウイルスパパイア系統(PRSV-P)も同様に検出不可能であった。
  2. この原因として、パパイアに多量に含まれるタンパク分解酵素のパパインが、試料調整時にウイルスタンパクを分解して反応を陰性にしたと考えられた。そこでパパインの酵素活性を阻害する方法を種々検討した結果、Actinomyces 由来のタンパク分解酵素阻害剤、アンチパインを磨砕緩衝液に添加することによって、ウイルスタンパクの強いシグナルが検出できることが判明した(図1 lane P+A)。アンチパインの添加濃度は0.1~1mg/mlが適当であった(図2)。
  3. 本法(図3)によりパパイアウイルス病の2種の病原ウイルス(PLDMV, PRSV-P)CPをパパイア感染葉から直接検出することができるようになった。検出に要する期間は従来の3週間から2日間へと大幅に短縮され、多量のサンプルを検定することも可能になった。

成果の活用面・留意点

  1. 本法は既に沖縄県農業試験場等で、実用的な検出法として利用されている。また、温室等の設備がない開発途上国でも、短期間・多量・簡便に検出ができる。
  2. 組換えパパイアからのCPタンパク質の検出が可能になり、現在抵抗性パパイアが作出されていない熱帯アジア地域でも、ウイルス抵抗性組換えパパイア作出の研究が推進される。
  3. アンチパインの添加濃度が低いと、ウイルスCPが分解されるので、実験の目的(検出・分子量測定)に応じて、添加濃度を調整する必要がある。

具体的データ

  1.  

    図1 アンチパインを用いたウエスタンブロッティング法によるパパイア感染葉からのPLDMVの検出
  2. 図2 アンチパインの添付濃度
  3. 図3 パパイア感染葉からのウエスタンブロッティングによる2種ウイルスの検出法
Affiliation

国際農研 沖縄支所

予算区分
経常
研究課題

熱帯・亜熱帯地域に発生するウイルス性病害の生態解明と制御技術の開発

研究期間

平成8年度(7~11年度)

研究担当者

眞岡 哲夫 ( 沖縄支所 )

野田 千代一 ( 沖縄支所 )

ほか
発表論文等

眞岡哲夫・宇杉富雄・野田千代一 (1996) パパイア感染葉からのPotyvirus検出のためのWestern blotting法の改良. 日植病報, 62: 639.

眞岡哲夫 (1996) 東南アジアのパパイアに発生するウイルス病. 日本植物病理学会九州部会第21回シンポジウム講演集: 1-20.

日本語PDF

1996_17_A3_ja.pdf514.28 KB

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