国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

環礁島の地下淡水レンズの汚染源対策は地下水の滞留時間にも配慮すべきである

要約

マーシャル諸島共和国では、発生源から環境中に排出される窒素負荷量は豚舎において最大である。大規模な豚舎に加え、地下水の滞留時間が長い島の外洋側や南側から汚染源対策を導入することが効果的である。

背景・ねらい

最大標高数m程度の低平な環礁島により国土が形成される小島嶼開発途上国では、地下に賦存する淡水レンズ(地下の海水の上に浮かぶレンズ状の淡水)を主な水資源として利用することが多い。しかし、環礁島では土壌の透水性が高く、直上の集落からの生活排水や農地や畜舎からの汚水の混入などによる地下水汚染のリスクが高いため、現状の把握とそれに基づく効率的な発生源対策が重要である。マーシャル諸島共和国マジュロ環礁ローラ島(面積:1.8 km2、平均標高:約2~3 m、人口:1,860人)を対象に(図1)、淡水レンズ地下水の硝酸性窒素による汚染の状況を把握して、原単位法による家屋、豚舎、畑地からの窒素負荷排出量の試算に基づく汚染リスクの分布を推定し、地下水の滞留時間を考慮した効率的な対策の導入法を提案する。

成果の内容・特徴

  1. 研究対象地域で調査した73か所の地下水のうち、家庭井戸1地点で硝酸性窒素濃度がWHO(世界保健機関)の飲料水の水質基準値(11 mg L-1)を超過している。硝酸性窒素濃度が相対的に高い地下水井は、島の南東側と北西側に存在する(図2)。
  2. 窒素負荷の主な排出源と推定される家屋、豚舎、畑地を対象に、それぞれ既報の原単位(単位量当たりに含まれる窒素量)に悉皆調査で得た人口、豚頭数、畑地面積を乗じて窒素負荷排出量を求めた。島内の窒素負荷排出量は、豚舎>家屋>畑地の順に大きいが、1発生源あたりの排出負荷量は、豚舎>畑地>家屋の順に大きいと推定される。大規模な豚舎や畑地から対策を順次導入することで、窒素負荷の排出量を効果的に削減できる(表1)。
  3. 石灰岩などカルシウム成分を多く含む地質の分布する地域では、人間や火山活動による影響が大きくない場合、地下水中に溶存する非海水起源のカルシウムイオンの濃度は地下水の滞留時間の長さを反映していることから、滞留時間の簡便な指標(Inssal-Ca2+)を新たに提案する(図3)。地下水が全て海水から涵養されている場合はInssal-Ca2+=1となり、値が大きいほど非海水起源のカルシウムイオンの割合が高く、滞留時間の長い地下水であると考えられる。
  4. 1. で調査した家庭用の井戸におけるInssal-Ca2+は、島の外洋側や南側で高い。これらの地域では地下水の滞留時間が相対的に長い可能性が高く、汚染の長期化に配慮した対策が求められる。

成果の活用面・留意点

  1. 対象地域では、WHOによる飲料水の水質基準値を上回る硝酸性窒素濃度が地下水中に検出されていることから、地下への窒素負荷量を削減するべきである。
  2. 対象地域における、地表面や地下への窒素負荷量の軽減を検討する基礎データとなり、対策の効率的な実施に寄与する。
  3. Inssal-Ca2+は簡便法であり、島内における地下水の滞留時間はトリチウム(3H)、CFCs、SF6などを多地点で分析し、結果をもって総合的に判断することが望ましい。

具体的データ

  1. 図1 マーシャル諸島共和国マジュロ環礁ローラ島
    図1 マーシャル諸島共和国マジュロ環礁ローラ島

  2. 図2 地下水中に含まれる硝酸性窒素濃度
    図2 地下水中に含まれる硝酸性窒素濃度
    (2011年2-3月の調査結果)

  3. 図3 地下水のInssal-Ca2+値(家庭井戸)
    図3 地下水のInssal-Ca2+値(家庭井戸)

  4. 表1 家屋、豚舎、畑地からの窒素負荷排出量と 全体に占める割合

      家屋* 豚舎* 畑地*
           
    窒素排出量の合計 (N g/) 16,000 18,000 9,200
    1発生源から排出される平均窒素負荷量 (N g/) 70 210 120
    1発生源から排出される最大窒素負荷量 (N g/) 310 5,100 2,200
    人為的な窒素排出負荷量に占める割合 (%) 37 42 21
    * 窒素負荷発生源の単位: 家屋は1軒、豚舎は1軒 または1事業所、畑地は一筆
所属

国際農研生産環境・畜産領域

分類

研究

国名
  • マーシャル諸島
  • 研究プロジェクト

    [島嶼環境保全]島嶼における環境保全型農業生産技術の開発

    プログラム名

    資源・環境管理

    予算区分

    交付金島嶼環境保全

    研究期間

    2018年度(2011~2015年度)

    研究担当者
  • 飯泉 佳子 (生産環境・畜産領域)
  • 大森 圭祐 (農村開発領域)
  • 新田 直人 (国際農林業協働協会)
  • 発表論文等

    飯泉ら(2018)日本水文科学会誌 48(2):81-93 DOI: 10.4145/jahs.48.81

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