概要
JIRCASは、毎年、開発途上地域の公的機関、大学、国際研究機関の研究者が集うJIRCAS国際シンポジウムを開催しています。同シンポジウムでは、開発途上地域における農林水産業をめぐる諸問題とその持続的発展をテーマとした発表や討議を行っています。
2016年は国連が定めた国際マメ年です。マメ類作物は、農業の面でも、食料安全保障や栄養改善の面でも、非常に重要な作物です。マメ類には様々な種類があり、世界中で栽培され、人々の暮らに欠かすことの出来ない作物として、文化的にも尊ばれています。マメ類から作った農業生産物もまた多様で、国際的にも地域的にも価値の付加を通じて多くの産業セクターに利益をもたらしています。
本年のシンポジウムは、これら豆類のスーパーパワーを様々な側面から再確認し、JIRCASが開発途上地域で行っているマメ類を利活用する農業技術の開発と普及に関する研究について紹介、そしてSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる貧困削減と食料安全保障の確保、健康・福祉の改善、地球環境問題の解決等において、マメ類の持つポテンシャルについて議論することを目的に開催しました。
- 日時
- 平成28年12月2日(金)
- 開催場所
- 国連大学ウ・タント国際会議場
- 主催
- 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)
- 共催
- 国連大学サステイナビリティ高等研究所
- 後援
- 農林水産省農林水産技術会議事務局
- 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)
- 国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所
- 公益財団法人日本豆類協会
- 持続的開発のための農林水産国際研究フォーラム(J-FARD)
開会
主催者を代表し岩永勝JIRCAS理事長より、(1) 2016年は国連が定めた「国際マメ年」であり、これを記念した本シンポジウムでは、内外の最近の研究の成果を紹介しながら、マメ類のもつ素晴らしい特性をいくつかの異なる視点で再確認してみたい、(2) そして2016年は持続可能な開発目標(SDGs)に向けて行動する最初の年でもあることから、SDGsの達成のためにマメ類をいかに活用するか、またそのために研究者がすべきことは何かを考える機会としたい、との挨拶がありました。
次に来賓の農林水産技術会議事務局の西郷正道局長が登壇し、飢餓の撲滅と食料安全保障の確保ならびに持続的な農業の促進は、SDGsにおいても喫緊の課題であり、マメ類とその研究成果に期待するところは大きい、特にマメ類の多様性や空中窒素を固定する能力は世界農業の持続性にとって重要であることが述べられ、活発な議論を期待する旨挨拶をいただきました。
国連大学サステイナビリティ高等研究所の竹本和彦所長からは、まずは参加者、講演者への歓迎の意と、国際マメ年を記念するシンポジウムを共催できて光栄との言葉があり、活発な討議が行われ持続可能な農林水産業のための技術開発に向けた有意義なシンポジウムになることを切に願うとの挨拶がありました。
基調講演
座長 土居 邦弘(JIRCAS研究戦略室長)
基調講演で国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)のDavid Bergvinson所長は、食用マメ類は栄養価の点でも小農の収入源としてもまた土壌肥沃度の観点からも重要であるにもかかわらず、たとえば13種のマメ類への研究投資はトウモロコシの5分の1に過ぎない、国際マメ年の1年間だけではなく今後10年間にわたる基礎研究から社会実装までつなげる研究戦略が必要であることを強調しました。特にICRISATの研究対象地域である半乾燥熱帯は、貧困、栄養不良、環境劣化が顕著な地域であり、スマートフードである食用マメ類の貢献が最も期待されており、遺伝育種、栽培環境、土壌肥料、ポストハーベスト、社会経済等の学際的な取り組みが重要であることを述べました。JIRCASとの共同研究にも触れ、最後に、国際マメ年はまさにタイムリーであり、農家と消費者を力づけSDGsを実現するためのマメ類研究支援を急いで進めようではありませんか、と締めくくりました。
次に、東南アジアにおけるダイズとラッカセイの受容についてと題して、高知大学の前田和美名誉教授からもう一題の基調講演をいただきました。先生の基調は、国際的には油糧作物として括られているダイズとラッカセイは実は食用のマメとして扱うべきというもので、人類と豆との一万年の歴史を詳細にひもとき、また世界各地の栽培地を踏査した先生からの提言には説得力がありました。
セッション1:マメのある農業~持続的な栽培、開発、環境
座長 飛田 哲(JIRCAS資源・環境管理プログラムディレクター)
セッション1では、まず農研機構の羽鹿牧太領域長により、狭い国内とはいえ栽培環境の多様性に適応した日本の豆類栽培の現状と課題について報告をいただきました。次いで、西アフリカのガーナ国、クワメエンクルマ大学のRobert Abaidoo教授が、サブサハラアフリカの低肥沃な土壌の特徴を概観したあと、ササゲとダイズを中心とした作付体系の導入による効果と関連する技術ニーズについて報告を行いました。次いで登壇したミシガン州立大学のGretchen Neisler部長は、中米ガテマラで実施されたビーン(インゲンマメ)の飛躍的消費拡大を通じた栄養改善のプロジェクトを紹介し、主として女性に対する訓練と教育を通じたこのユニークな取り組みについて、現地の動画を交えて解説を行いました。
セッション 2:いろいろなところのいろいろなマメ~多様性と利用
座長 中島 一雄(JIRCAS農産物安定生産プログラムディレクター)
セッション2では、インドの国立食用豆類研究所のGirish Prasad Dixit氏が、インドにおいて重要なヒヨコマメとキマメを紹介し、それらの研究の最前線について報告しました。次いで農研機構遺伝資源センターの友岡憲彦氏は、ササゲ属の多くの野生種がストレス環境に適応しつつ進化したことを受け、野生のササゲ属植物はストレス適応遺伝子のリソースで、それらを利用した育種技術をNeo-domesticationとして提案していることを紹介しました。JIRCASの山中直樹氏からは、南米でダイズの生産を著しく低下させるさび病に対し、抵抗性を付与する遺伝子の集積による育種戦略と、地域を結ぶ研究ネットワークの重要性について発表がありました。
セッション3:マメのある生活~付加価値化と栄養改善に向けて
座長 山本 由紀代(JIRCAS高付加価値化プログラムディレクター)
セッション3では、まず東京大学の国際高等研究所に籍を置くそれぞれの国出身の若手研究員から(代表はYaw Agyeman Boafo氏)、マメ科作物がサブサハラアフリカのガーナ、マラウイならびにギニアの農村において生活改善に貢献する例が紹介されました。次いで味の素株式会社の取出恭彦氏は、ダイズを主成分とする補助食品(商品名ココプラス)を紹介し、従来のものに比べて子供の栄養改善への効果が高いこと、研究機関、援助機関やNGOとの連携が普及の要因として重要であることを述べました。最後に登壇したべにや長谷川商店の長谷川清美社長は、アジアを中心とする世界各地で撮った豆料理の写真を多く紹介しながら、それらを食べたエピソードと感想を話され、改めてマメの多様性、調理法の多様性に会場は驚かされました。