- 日時
- 2012年12月6日
- 会場
- タイ国バンコク市
- 主催機関
- 国際農林水産業研究センター、タイ農業局(DOA)、タイ土地開発局(LDD)
会議概要
平成24年12月6日、タイ国バンコク市で国際ワークショップ「農地管理を通じた土壌への炭素蓄積-世界における研究最新動向と東南アジアの位置づけ」を、JIRCAS、タイ農業局(DOA)、土地開発局(LDD)の共催で開催しました。ワークショップには、タイ、インドネシア、ベトナムの研究者を中心に55名が参加しました。
開会セッションでは、主催者を代表してDOAシニアエキスパートMs. Bhavana Likhananont、LDDエキスパートMs. Nongkran Maneewon及び川島知之JIRCASプログラムディレクターから開会の辞が述べられた後、杉野智英JIRCAS地域コーディネーター(東南アジア担当)から、「土壌炭素隔離は農業が温室効果ガス(GHG)削減に寄与する有力な手法だが、炭素の動態予測に役立つ長期連用試験は、東南アジアを含む熱帯での実施事例が少なく、同地域の本分野に関する研究者の連携が重要」と、ワークショップの背景に関する説明が行われました。
続く基調講演では、3名の招待講演者が、農地における土壌炭素隔離に関する最新の知見を報告しました。
白戸康人農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター上席研究員からは、「ローザムステッドモデルによる日本の農地における土壌炭素変化のシミュレーション」という演題で、英国で開発された土壌炭素動態モデルを日本の土壌条件に合わせ一部改良し、日本全国の土壌炭素蓄積ポテンシャルを試算した結果が報告されました。
ローザムステッド研究所Dr. Andrew Macdonaldからは、「土壌炭素隔離:ローザムステッド長期連用試験からの教訓」という演題で、1800年代半ばから開始され世界最長といわれる同研究所の長期連用試験の概要が報告されるとともに、土壌炭素はGHGのみならず土壌の様々な性質に影響する要因である一方、農地管理による変化は時間を要し、動態を正確に把握するための長期連用試験の重要性が述べられました。
国際稲研究所(IRRI) 主任研究員Dr. Roland Bureshからは、「土壌炭素隔離に関する最新の知見とIRRIにおける長期連用試験」という演題で、IRRIで1963年に開始され世界最長の水田長期連用試験の概要が報告されるとともに、水田の炭素保持能力は高いが、作物多様化による畑作物の導入によって土壌炭素は急速に失われることが述べられました。
午後のセッションでは、JIRCAS気候変動対応プロジェクトで実施中の長期連用試験に関する報告が、3ヶ国の研究担当者から報告されました。
インドネシア農業研究開発庁研究員Mr. Suwandiからは、2006年から同国野菜研究所で実施中の火山灰土壌における試験について、土壌炭素の初期値が高いことから炭素蓄積は困難である一方、堆肥施用により化学肥料の施肥を半減できることが確認され、化学肥料節減によるGHG排出削減が可能であることが報告されました。
タイDOA研究員Dr. Suphakarn Luanmaneeからは、同国ロプブリー県で1976年から実施中のトウモロコシを主作物とする試験について、これまでの試験結果から、堆肥施用、緑肥作物導入による炭素蓄積量が定量的に把握されたこと、JIRCASとの共同研究に加え、炭素隔離と窒素循環の解明を目的とした長期連用試験を、国内3ヶ所のDOA試験場で新たに開始する計画があることが報告されました。
ベトナムクーロン稲研究所副所長Dr. Luu Hong Man及び渡辺武JIRCAS生産環境・畜産領域主任研究員からは、クーロン稲研究所で2000年から実施中の水田における試験について、稲わら堆肥施用により化学肥料削減と収量向上が可能であること、堆肥施用区と無施用区の土壌炭素に有意な差が認められたことが報告されました。
総合討論では、鳥山和伸JIRCAS生産環境・畜産領域長が座長となり、長期連用試験は土壌炭素の動態把握に欠かせないが、短期的な研究成果だけでなく長期間の試験で得られるデータを研究者共通の資源として認識し、その活用をはかるべきであること、高い土壌炭素含有量が必ずしも高い作物収量を保証するものではなく、炭素のみならず土壌の生産性を総合的(holistic)にとらえることが重要であること、一方で、東北タイ等土壌炭素が極端に低い地域では、土壌炭素は肥沃度の有効な指標となること等が議論されました。
本ワークショップの開催により、地球温暖化を背景に関心を集める土壌炭素隔離について、最新の知見を東南アジアの研究者に提供するとともに、本分野の研究者間の情報交換を進めることができました。