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217. COVID-19とサバクトビバッタの世界食料市場インパクトに関するシナリオ分析

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ちょうど1年前の1月22日、中国の武漢で広がり始めていた新型肺炎について、中国政府関係者より「ヒトからヒトへの感染が認められる」ことが発表され、「多くの人が移動する春節期間、警戒をより高めてほしい」と呼びかけたことがニュースになりました。 このとき、日本での感染者はまだ1名でした。その後、世界中をコロナ禍が席巻し、移動規制が世界各地で食の生産と消費を結ぶ流通を分断する事態に発展していきました。

2020年のグローバル・フードシステムは、COVID-19の影響に加え、東アフリカから南アジアにかけてサバクトビバッタの影響もあり、世界的な食料危機への懸念が高まりました。2020年の間は、国際機関が穀物備蓄・生産見通しに関する情報提供と国際協調の呼びかけを迅速に行ったことも功を奏して、今のところコロナ禍・バッタ被害の直接的影響による世界穀物市場レベルでの危機は回避されているようです。にもかかわらず、グローバル・サプライチェーンの流通面における潜在的な脆弱性を浮かび上がらせる契機となりました。 

2021年1月、Nature Food誌において公表された論文は、2020年COVID-19とサバクトビバッタ被害の同時発生にアイデアを受け、このようなイベントが実際に食料問題を引き起こす場合のシナリオに基づき、低中所得国へのインパクト推計を行いました。具体的には、三大穀物輸出国における干ばつとロックダウンの影響による5年に一度規模の生産削減と、2020年5月時点でサバクトビバッタの作物被害の影響を受けた国々における20年に一度規模の生産削減を想定し、世界の小麦・コメ・とうもろこしの供給と価格に与えるシナリオ分析を行いました。分析によると国内生産の落ち込みによる世界価格・供給への影響は緩やかなものの、主要国による貿易規制や買い占めは価格高騰と地域によっては深刻な食料危機をもたらしかねない、としました。

今現在も、コロナ禍の収束が見えない中、世界各地で感染拡大の波が起こるたびに各国で国内外移動規制の引き締めが行われ、またサバクトビバッタのような越境性病害虫被害の発現はなかなか予測できない状況です グローバル化社会においては世界食料安全保障の事情について予断をゆるさず、常に心の準備をしておく必要があります。 国際農研は、昨年来、国際食料貿易の動向やサバクトビバッタに関する科学的情報を発信してきました。今後も、引き続き、世界の食料安全保障や越境性病害虫動向に関する最新の情報収集提供に努めます。

 

参考文献

Falkendal, T., Otto, C., Schewe, J. et al. Grain export restrictions during COVID-19 risk food insecurity in many low- and middle-income countries. Nat Food 2, 11–14 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-020-00211-7

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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