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27. 新型コロナウイルス・パンデミック ― IFPRIダッシュボード: COVID-19輸出規制による世界食料市場への影響追跡
日本はカロリーベースでの自給率が37%に留まり、世界第三位の穀物輸入国です(Pick Up 11)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による国際的な移動規制は、国際貿易に依存する日本の食料安全保障にも影響を与えるかもしれないという関心からか、ホットケーキ粉など小麦粉を使った食品が品薄になっていることが話題になりました。これに対し、日本政府・農林水産省は、2020年5月1日現在、コメや小麦の備蓄についても十分な量が確保され、海外からの輸入が滞っているということはない、と明言しています。
COVID-19による世界経済への影響が増す中、穀物市場においては世界的に十分な在庫が確保されているとのことで、石油・メタル価格に比べ、穀物価格は相対的に安定的に推移しています (Pick Up 24) 。しかし、2008年世界食料危機の経験を振り返ると、主要輸出国による規制の動きがドミノ倒し的に世界食料価格の高騰をもたらし、食料輸入国の食料安全保障を脅かしかねない可能性も否定できません。国際社会は、刻々と変化する食料輸出国による政策の動きや、食料輸入国への影響を随時モニタリングし、国際協調で解決する方法を準備しておく必要があります (Pick Up 9) 。
国際食糧政策研究所(The International Food Policy Research Institute: IFPRI)は、COVID-19パンデミック下における各国の輸出規制と、その世界食料市場への影響を追跡するダッシュボードを2020年3月以来開設し(https://www.ifpri.org/project/covid-19-food-trade-policy-tracker)、データ収集方法についての解説に関するレポートを公表しました。ダッシュボードは公的・非公的双方の情報源からの体系的かつ臨機応変なデータ収集を通じ、COVID-19危機に応じた食料貿易政策の変化を捉えます。この情報に、詳細な貿易・かつ食料貿易をカロリー換算したデータを合わせることで、各政策のインパクトの規模感を示唆するインパクト指標を作成しています。IFPRIは、これらデータを双方向性のあるものとして公表、日々更新することを目指しています。
IFPRIによると、レポート執筆時点(4月28日) において、15か国がCOVID-19に対応し、おもに主食作物に関係する輸出規制を実施中です。33か国による輸出規制が実施された2007-2008年の食料危機がカロリー換算された世界貿易で19%の影響をもたらしたのに対し、今回はまだ5%程度の影響となっています。他方、既に食料安全保障上の影響が懸念される国もあります。例えば、キルギスタンは摂取カロリーの殆どを、カザフスタンからの小麦・小麦粉製品の輸入に依存していますが、そのカザフスタンが小麦・小麦粉の輸出を禁止しています。これにより、キルギスタンの輸入カロリーの50%が輸出規制に影響を受けると推計されています。
IFPRIは次のように述べています。通常、自由貿易は、世界中の人々の食料栄養安全保障の確保に不可欠ですが、世界的な危機に直面する現在において、より重要な意義を持ちます。COVID-19は全人類への挑戦であり、一国政府が自国のみで解決できるものでありません。今は世界中の国が貿易協力を通じて、世界中のすべての国における食料栄養安全保障を維持することが肝要です。
参考文献
IFPRI COVID-19 FOOD TRADE POLICY TRACKER. https://www.ifpri.org/project/covid-19-food-trade-policy-tracker
Laborde Debucquet, David; Mamun, Abdullah; and Parent, Marie. 2020. Documentation for the COVID-19 food trade policy tracker: Tracking government responses affecting global food markets during the COVID-19 crisis. COVID-19 Food Trade Policy Tracker Working Paper 1. Washington, DC: International Food Policy Research Institute (IFPRI). https://www.ifpri.org/publication/documentation-covid-19-food-trade-policy-tracker-tracking-government-responses-affecting
農林水産省「新型コロナウイルス感染症について」https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/ Accessed on May 3, 2020.
Pick Up 9. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 輸出規制・保護主義回避の必要性:2008年世界食料危機からの教訓 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200402
Pick Up 11. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 国際貿易と食料安全保障 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200406
Pick Up 24. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 世界銀行報告:COVID-19の一次産品商品市場への影響https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200426_0
(文責:研究戦略室 飯山みゆき)