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11. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 国際貿易と食料安全保障

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情報収集分析

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による移動規制・都市封鎖 (ロックダウン)に際し、グローバル・フードチェーンはその頑強性(robustness)・強靭性(resilience)が試されています(BBC World Service; Pick Up 8/9)。2020年3月31日に閣議決定されたばかりの新たな「食料・農業・農村基本計画」においても、我が国の食料の安定供給に影響を及ぼすリスク要因の一つとして、新型コロナウイルス感染症の発生による輸入の一時的な停滞に言及しています。国際社会が世界的な食料危機を乗り越え、食料安全保障を維持するためには、国際貿易の動向についての情報もしっかりモニターしていく必要があります (IFPRI)。「食料・農業・農村基本計画」は、不測の事態に備え、平素から、食料の需要や生産に変化がみられる国や、気候変動により食料生産への影響が顕在化している国の状況など、短~中~長期的に世界食料供給に影響を及ぼす要因の調査・分析を行い、日本・世界の食料安全保障の観点から中長期的な課題や取り組むべき方向性を議論すべきとしています。

Chatham House が国際貿易データをまとめたダッシュボード(resourcetrade.earth)によると、農産物の貿易額は2000年の4000億ドルから2018年には1.2兆ドルと額面で3倍、同期間に重量ベースでは8億トンから17億トンと約2倍に拡大しました。2018年の農作物貿易額上位5分類は、上から順に、園芸(果物・野菜・ナッツ・花きなど)、油脂作物(大豆、パーム油など)、穀物(小麦、メイズ[とうもろこし]、コメなど)、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)、水産養殖物(海産物、冷凍水産加工品など)となっています(図1)。穀物の取引額は1390億ドル、農産物貿易総額の11%(重量ベースではトップシェアの30%)を占めました。穀物の貿易額で最大のシェアを誇るのが小麦で(563億ドル; 41%)、続いてメイズ(390億ドル; 28%)、コメ(258億ドル; 19%)でした(図2)。穀物貿易全体で見ると(図3)、世界トップ5の輸出国はアメリカ・ロシア・フランス・カナダ・ウクライナに対し、輸入国はエジプト・中国に続き日本が世界第三位(58億ドル、うちメイズ30億ドル、小麦16億ドル) となっています。ちなみに、日本の自給率は、先に述べた「基本計画」にて、新たに定義された生産額ベースでは66%ですが、カロリーベースで37%である原因の一つが、メイズを主原料とする畜産飼料の海外依存・低い自給率(25%)です(農林水産省)。

コメについては、インド・タイ・ベトナム・パキスタンが上位輸出国であり、中国・イラン・サウジアラビア・インドネシアが上位輸入国です(アメリカは輸出・輸入とも5位)。他方、コメの国際貿易においては、アジアにとどまらず、アジアから中東・アフリカへの流れが意外にも大きく、アフリカにおいてコメの純輸入国が多いことが伺えます(図4) 。

意外と思う人も多いと思いますが、一人当たりのコメの消費量が日本よりも多い国がアフリカには存在し、その消費量は都市化と人口増加で年々増えています。アフリカでのコメ生産では追い付かず、40%程度を輸入に頼っています。2007-2008年の食料危機では、アフリカ各国はコメ不足・価格高昇の影響を強く受けました。その後、その二の舞にならぬように、各国の政府はコメ増産・自給率増加の施策を打ち出しました。2008年5月には、JICAがアフリカにおけるコメ生産拡大に向けた自助努力を支援するためのイニシアティブとして「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」を発表し、2018年までに、対象国23ヵ国の政府や国際農研を含む11の国際機関と手を組み、コメの生産量を2008年から2018年の10年間で倍増させる目標を達成に導きました。一方で、その10年間でコメ消費も著しく伸び、生産量の増加は自給率の向上には繋がりませんでした。生産量の低い理由は、いまだに低い籾収量と限られた作付け面積となり、双方の持続的な増加が今後の自給率向上の鍵となります。

国際農研は、CARD第一フェーズから理事会のメンバーとなっており、アフリカのコメ増産に科学的な見地からの貢献を目指して、地域に適応し収量性が向上した育種素材の開発や、持続性のある低投入栽培技術の開発、技術移転のための調査・研究を実施してきました。その姿勢は2019年からはじまった第二フェーズの開始後も変わりません。現在、マダガスカルではリン酸肥料を効率良く利用できる栽培技術や育種材料の選抜を通じてコメの生産性向上に取り組んでおり、タンザニアではコメの安定生産に資する水利施設や水利用技術の開発を進めています。また、国際農業研究協議グループ(CGIAR)傘下の研究機関である国際イネ研究所(IRRI)やアフリカ稲センター(AfricaRice)、国際熱帯農業センター(CIAT)と共にイネ研究プログラム(RICE-CRP)に参画し、コメの加工技術、営農強化、品種開発に向けた共同研究を進めています。さらに、アフリカの国々との二国間の研究協力として、窒素利用効率に優れた育種素材の評価実施に向けた取り組みも進めています。開発した技術・育種素材をアフリカの現地で利用してもらえるよう、国際農研は努力を続けます。

 

参考文献

BBC World Service. The Real Story. Coronavirus: How robust is our food chain? https://www.bbc.co.uk/programmes/w3cszcmn  accessed on April 4, 2020

Chatham House (2018), ‘resourcetrade.earth’, http://resourcetrade.earth/   Accessed on April 5, 2020.

IFPRI. Issue Post COVID-19: Trade restrictions are worst possible response to safeguard food security MARCH 27, 2020. https://www.ifpri.org/blog/covid-19-trade-restrictions-are-worst-possible-response-safeguard-food-security. Accessed on April 2, 2020.

農林水産省「食料・農業・農村基本計画」令和2年3月.

Pick Up 8. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 世界食料危機への国際社会による対応 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200401

Pick Up 9. 新型コロナウイルス・パンデミック ―  輸出規制・保護主義回避の必要性:2008年世界食料危機からの教訓  https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200402

JIRCAS HP. Fy Vary Project  https://www.jircas.go.jp/en/satreps

(文責:生物資源・利用領域 柳原誠司 ・ 社会科学領域 齋藤和樹 ・ 研究戦略室 飯山みゆき)

Container and fishing port in Dakar, Senegal

Fig. 1. Share of agricultural products trade value in 2018 (Data: resourcetrade.earth)

Fig. 2. Share of global cereals trade in 2018 (Data: resourcetrade.earth)

Fig. 3. Global cereals trade in 2018 (Data: resourcetrade.earth)

Fig. 4. Global rice trade in 2018 (Data: resourcetrade.earth)

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