Pick Up

8. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 世界食料危機への国際社会による対応

2019年12月に発生が確認された新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の影響は、今や世界中に及んでいます。2020年4月1日現在において、世界190か国以上で84.5万人以上の感染者が報告されています(Financial Times HP)。感染拡大の「震源地epicentre」は、中国から欧州・アメリカ合衆国へと移行し、日本でも東京をはじめとした大都市において数日間連続で感染者数が拡大傾向にあり、予断を許さない状況が続いています。現在、欧米での拡大がいつ収束していくのかに関心が集まる一方、今後、サブサハラ・アフリカ地域を含む低所得国への拡大が懸念されています。

コロナウイルスによるインパクトは、とりわけ開発途上地域における脆弱な社会層に影響を及ぼしかねません。国連食糧農業機関(FAO)は、今回のパンデミックによる食料安全保障の危機が、世界で約8億2000万人とされる慢性的飢餓人口の中でも、とりわけ緊急事態に置かれた1.1憶人が属する53か国や、サバクトビバッタの被害を被った東アフリカ地域を含む食糧輸入国で深刻化することを予測しています。国連貿易開発会議(UNCTAD)は、2020年3月30日付で緊急に報告書(The Covid-19 Shock to Developing Countries)を発表し、新型コロナウイルスに伴う世界的な経済低迷によって、とりわけ一次産品輸出に依存する途上国経済は2008年の世界金融危機を上回る打撃を受けることが予想されると警告しました。

サブサハラ・アフリカ地域では近年急激な都市化が進んでいますが、農村・都市部スラムとも、上下水道が十分整備されず、医療体制が脆弱で、感染症の急激な拡大に対応できるインフラが整っていません。同時に、食料安全保障の達成にもままならない貧困諸国も多く、未だに4人に1人が栄養失調問題を抱えています。エボラ危機の際にも検疫や移動制限に伴う社会的な混乱で飢餓や栄養状態が悪化しました。さらに昨年来、気候変動による干ばつや、サバクトビバッタによる被害で農業生産が壊滅的な影響を受けている地域では、既に2020年内に食料不足が予測されています。食料不足により栄養状態が悪化すると、免疫・抵抗力も低下し、感染症が重症化しやすくなります。サブサハラ・アフリカ地域は難民キャンプを既に多く抱えていますが、食料危機で難民が増加することも想定されます。これら背景を考慮すると、とりわけ鉱物資源や商品作物輸出に依存しつつ、食料輸入に頼るサブサハラ・アフリカ諸国では、新型コロナウイルス感染症による直接の社会・人道的危機に加え、食料・栄養安全保障危機の悪化が懸念されています。

2020年3月末時点において、世界保健機関(WHO)はサブサハラ・アフリカ地域での感染拡大はアジアや欧州に比べこれまでは緩やかでしたが、最近では「事態はかなり劇的に進んでいる」と警鐘を鳴らしています。ロイター通信社によると、3月26日時点で感染者は40カ国以上で約2850人、死者は73人に上っています。サブサハラ・アフリカ地域では、初期段階の内に感染拡大の封じ込めに取り組む必要があります(Reuters News)。域内では南アフリカが3月26日から3週間の外出禁止策を導入したほか、ケニアは夜間外出禁止令を発令しており、地域で最大の人口を抱えるナイジェリアでも3月30日に都市封鎖(lockdown)を宣言しました。

2020年3月26日夜、日米欧や新興国を含む20カ国・地域(G20)の首脳が、新型コロナウイルスへの対応を巡り、史上初のテレビ会議を開き、パンデミックの経済的な打撃に対処するために「共通の脅威に団結し立ち向かう」との声明を発表しました。とりわけ、グローバル社会の強靭性を強化する上で、保健制度及び経済が脆弱な開発途上地域、特にアフリカおよび小島嶼国が直面する危機を深刻に懸念し、コミュニティに対する能力及び技術支援を強化するために資金を動員することを約束しました。

国際農研は、国際農林水産業研究分野において、日本を代表して国際会議やプラットフォームに参加しています。その一環として、国際農研理事長が、G20首席農業研究者会議(G20MACS)に政府代表団団長として参加、また、FAO事務局長顧問団メンバーを務めるなど、世界トップクラスの農業研究者らとともに、世界の食料の安定供給に係る農業研究の優先事項を協議し、各国等の連携強化について情報交換を行っています。また、より長期的な視点から、サブサハラ・アフリカ地域における食料生産安定化の研究を行っており、今回の危機への対策についても、研究の視点から戦略的対応を行っています。

 

参考文献

FAO HP. Q&A: COVID-19 pandemic – impact on food and agriculture. http://www.fao.org/2019-ncov/q-and-a/en/

Financial Times HP. Coronavirus tracked: the latest figures as the pandemic https://www.ft.com/coronavirus-latest  accessed April 1, 2020.

外務省HP.  G20首脳テレビ会議https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page6_000383.html

JIRCAS HP. G20首席農業研究者会議(G20 Meeting of Agricultural Chief Scientists, G20 MACS)への参加 https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2019/r20190426

JIRCAS HP. 国際農研岩永理事長がFAO顧問団メンバーに就任 https://www.jircas.go.jp/ja/release/2019/press201910

日経産業新聞 『直談 国際農林水産業研究センター理事長 岩永勝氏 気候変動、品種改良で挑む』2020.4.1.

Reuters News. WHO、アフリカの新型コロナ拡大に懸念 「阻止の可能性縮小」 2020.3.27. https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-africa-idJPKBN21D34S

UNCTAD.  The Covid-19 Shock to Developing Countries: Towards a “whatever it takes” programme for the two-thirds of the world’s population being left behind. March 30, 2020.  https://unctad.org/en/PublicationsLibrary/gds_tdr2019_covid2_en.pdf

 

(文責:理事長 岩永勝 ・研究戦略室 飯山みゆき)

Refugee camp in Kenya

Masai woman drawing water from a well

Delay in infrastructure supply due to rapid urbanization in Kenya