1929年～の大恐慌はグレート・ディプレッション (Great Depression)、2008年～2010年代の世界金融危機はグレート・リセッション(Great Recession) 、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う世界経済危機はグレート・ロックダウン(Great Lockdown)と称される中、現在ここからグレート・リバーサル(Great Reversal:大逆行)、或いはよりよい社会に向けたグレート・リセット(Great Reset:仕切り直し)となるか歴史的な分岐点にあるようです。2020年6月3日、クリスタリナ・ゲオルギエヴァ国際通貨基金(IMF)常務取締役が世界経済フォーラム(World Economic Forum)に向けた声明の要旨を紹介します。

今は歴史的視点から今回の危機がどう定義されていくかが決まり得る決定的な時期です。歴史家は今回の危機を「 グレート・リバーサル」と名付けるでしょうか。年末までに世界の170か国において昨年に比べ経済縮小と債務・財政赤字・失業の悪化が予測され、さらに格差と貧困が進行する確率も高いことが不安の種です。我々が適切な対応をとらなければ、ですが。

後日この時期を振り返って「グレート・リセット」であったとするために、我々は何が必要でしょうか。IMFが見るところ、各国は危機を乗り切るために大規模な財政刺激対策を講じ、成長軌道に戻そうとしています。経済成長は、持続的で(greener)、スマートで(smart)、公平(fairer)な世界の構築に貢献すべきです。今すぐ着手すれば不可能ではなく、無駄にする時間はありません。IMFは以下の分野に大きな機会を見出しています。

まず、持続的な成長(green growth)について。政府は低炭素や気候変動に強靭な成長を支えるための公共投資と民間投資の誘引を導入すべきです。この分野における投資の多くは、マングローブの植林や荒廃地の修復(land restoration)、植林や建物の耐熱化など、雇用創出型の回復を可能にします。現在の低い原油価格を生かし、逆効果な補助金を撤廃し、投資のインセンティブとしての炭素価格を導入すべきです。

第二に、スマートな成長について(smarter growth)。今回の危機の勝者はデジタル経済です。他方でデジタル・デバイドによる情報格差の悪化を許容することはできません。よってIMFは世界銀行等のパートナーとともに、デジタル・デバイドを縮小するための投資を奨励します。

三番目に公平な成長について(fairer growth)。過去にも起こったように、放置すると、パンデミックは格差を拡大します。人々への投資―最も脆弱な人々に対する教育や社会プログラムの拡大――に資源を集中する必要があります。

過去の例を挙げます。第二次大戦の最中、ウィリアム・ヘンリー・ベヴァリッジ*は、1942年の有名な「ベヴァリッジ報告」において、現在イギリスで多くの命を救っている国民保健サービス(National Health Service: NHS)の創設を提案、よりよい戦後社会の構築に貢献しました。IMFも同時代にブレトンウッズ会議にて創設されました。今や、我々の持てる力の全てを結集して、この時期がグレート・リバーサルではなくグレート・リセットとして記憶されるべく、歴史の一ページをめくるべきです。IMFは1兆ドルの金融支援キャパシティと政策へのエンゲージメントで対応します。

*Wikipediaより: William Beveridge:イギリスの経済学者、社会政策学者、政治家。1942年に発表された「社会保険と関連サービス」と題された報告書は、第二次世界大戦後のイギリスだけでなく、日本を含む先進諸国の社会保障制度の構築に多大な影響を与えた。

参考文献

IMF. The Great Reset Remarks to World Economic Forum Kristalina Georgieva, Managing Director, IMF June 3, 2020 https://www.imf.org/en/News/Articles/2020/06/03/sp060320-remarks-to-world-economic-forum-the-great-reset

World Economic Forum. The Great Reset. https://templatearchive.com/the-great-reset/

World Economic Forum. Now is the time for a 'great reset' 03 Jun 2020 Klaus Schwab. https://www.weforum.org/agenda/2020/06/now-is-the-time-for-a-great-reset/

（文責：研究戦略室　飯山みゆき）