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1571. 世界のイネ研究を支えるIRRI―日本とともに考える、気候変動下のコメ生産―

 

1571. 世界のイネ研究を支えるIRRI―日本とともに考える、気候変動下のコメ生産―
 

日本の食卓に欠かせないコメも、気候変動の影響と無縁ではありません。高温、水不足、病害虫、環境負荷や温室効果ガス排出の低減など、世界の稲作は複数の課題に同時に向き合う必要があります。こうした課題に国際的に取り組んできた研究機関の一つが、フィリピンに本部を置く国際稲研究所(IRRI)です。日本とIRRIは、60年以上にわたり、イネ研究と研究者交流を通じて協力を重ねてきました。

2026年10月には、IRRI、国際農研および農研機構が共同で、「耐暑性イネ生産システムに関する国際戦略フォーラム及びテクニカルワークショップ」を東京都内で開催します。本記事では、IRRIの役割と日本との協力の歩みを紹介するとともに、気候変動下のコメ生産に向けて、今後どのような研究連携が重要になるかを考えます。

 

IRRIとCGIAR

IRRIは、1960年に設立された、イネ研究に特化した国際的な研究機関です。フィリピン・ラグナ州ロスバニョスに本部を置き、アジアとアフリカを中心とする国・地域で、稲作に関する研究、技術開発、人材育成、政策・普及に関する活動を行っています。IRRIは、CGIARの研究センターの一つです。CGIARは、食料、土地、水のシステムを、より持続可能で強靱なものへと転換するための研究とイノベーションを進める国際的な農業研究ネットワークです。IRRIは、コメに依存する人びとの健康と福祉の向上、貧困・飢餓・栄養不良の軽減、稲作の環境持続性の向上を掲げ、各国の研究機関、大学、政府、国際機関、民間企業等と連携しています。

IRRIの公式サイトによると、同研究所はアジアおよびアフリカの17か国で研究・連携活動を展開しており、多数の機関パートナーと連携して活動しています。研究対象は品種改良にとどまらず、栽培管理、気候変動への適応、温室効果ガス排出の削減、デジタル技術、研究支援サービス、人材育成など多岐にわたります。

 

緑の革命と遺伝資源

IRRIの歴史を語る上で欠かせないのが、1960年代の「緑の革命」です。IRRIが開発した半矮性の高収量品種IR8は1966年にリリースされました。IR8は、短い稈によって倒伏しにくく、肥料投入への反応性が高い特性を備え、アジアをはじめとする地域のコメ生産の増加に寄与しました。IRRIは、IR8を近代的半矮性イネ品種の原型であり、イネにおける緑の革命の契機となった品種と位置付けています。のちに「奇跡の米」とも呼ばれたIR8は、近代的なイネ育種の象徴的な品種の一つです。1985年にフィリピンで初めてリリースされたIR64は、高収量、早生、良食味、病害虫への抵抗性などを備え、リリース後20年以内に世界で1,000万ヘクタールを超える面積で広く栽培され、「メガ品種」として知られるようになりました。

IRRIの役割は、品種開発だけではありません。フィリピンのT.T. Chang Genetic Resources Centerが管理する国際イネジーンバンクは、栽培イネ、在来品種、野生近縁種、遺伝学的系統などを含む、世界最大規模のイネ遺伝資源コレクションを保存し、研究・育種・教育のために世界中の研究者や育種家に利用されています。気候変動や新たな病害虫に対応するための有用な遺伝子や形質を見つけるうえで、こうした遺伝資源は不可欠な基盤です。

IRRIは、研究成果を論文や技術として発信するだけでなく、各国の現場、制度、普及、人材育成につなげる取組も進めています。コメは世界の多くの人びとの主食であり、地域によって栽培環境も課題も異なります。そのため、世界の多様な水田環境を知り、地域ごとのニーズに合わせて技術を組み合わせることが重要になります。

 

日本とIRRIの協力

日本とIRRIの協力は、IRRI設立当初から続いています。これまで日本の研究者は、育種、病理、作物生理、栽培、社会科学などの分野でIRRIの研究に参加し、共同研究や研究者交流を行ってきました。日本人のイネ研究者の中には、若い時期にIRRIへ派遣され、現地の研究者との共同研究を通じて経験を積み、その後の研究キャリアを築いてきた人も少なくありませんIRRIで経験を積んだ研究者は、国際的な人的ネットワークや知見を日本のイネ研究に還元するとともに、日本で得られた成果を世界の稲作研究へ生かす役割も担ってきました。

この協力関係は、一方向的な支援としてではなく、相互補完的な研究連携として理解することが重要です。日本は、作物生理・環境計測、遺伝学、育種、栽培管理、気候影響評価などに研究蓄積を有します。一方、IRRIは、熱帯・亜熱帯を含む多様な稲作環境、国際イネジーンバンクをはじめとする研究資源、各国の研究・普及機関とのネットワークを有しています。日本とIRRIがそれぞれの研究基盤と強みを持ち寄ることで、気候変動下の稲作が直面する複合的な課題への対応が期待されています。

 

世界の最前線から学ぶこと、日本が貢献できること

現在のイネ研究では、高温、干ばつ、塩害、病害虫、温室効果ガス排出、労働力不足、栄養・市場ニーズの変化など、相互に関係する多様な課題を考慮する必要があります。IRRIは、品種改良に加え、栽培技術、気候変動への適応、環境持続性、デジタル技術、教育・人材育成を組み合わせ、稲作を含む「コメを基盤とする農業・食料システム」の変革を目指す方針を示しています。

日本においても、高温による収量・品質への影響、担い手不足、水管理、環境負荷の低減といった課題への対応が求められています。熱帯・亜熱帯の環境で蓄積されてきたIRRIや各国パートナーの知見と、日本の研究蓄積を結び付けることには意義があります。

日本の研究蓄積は、国際的な課題解決への貢献が期待されています。品種と栽培技術を個別に扱うだけでなく、気候予測、作物モデル、環境計測、地理空間解析、データ解析、温室効果ガス削減技術などを組み合わせる統合的な視点が重要です。こうした統合的な取組は、将来の気候リスクを見据え、地域条件に応じた対策を設計する上で有効と期待されます。このような取組を持続的に進めるには、知見、研究資源、データ、人材を継続的に共有する国際研究ネットワークが重要です。

 

知見と人材が循環する関係へ

国際共同研究を継続的な成果につなげるためには、知識を一度共有するだけでなく、研究者交流と人材育成を通じて協力関係を発展させることが重要です。研究者が互いの現場を知り、若手研究者が国際的な研究に参加し、得られた経験が次の共同研究につながる。そのような知見、ネットワーク、人材育成の循環が、気候変動のように変化の速い課題に対応する力になります。

気候変動によってイネ生産をめぐる課題が複雑化するなか、日本の研究蓄積とIRRIの国際的な研究基盤を、次の研究課題にどう結びつけるかが問われています。どの課題を優先し、どのようなデータ、技術、人材、研究ネットワークを準備しておくべきか。世界の動きを読み取り、日本と国際パートナーがともに取り組むべき研究アジェンダを考えることが、これからますます重要になります。

2026年10月13日(火)・14日(水)に東京都内で開催される「耐暑性イネ生産システムに関する国際戦略フォーラム及びテクニカルワークショップ」には、IRRI所長のYvonne Pinto氏をはじめ、育種、栽培、気候変動対応、デジタル技術などの分野に携わるIRRIの研究者・専門家が対面で参加します。日本の高温耐性イネ研究に携わる研究者や、コメ生産・研究に関わる関係者が一堂に会し、直接意見を交わすことができる貴重な機会です。本フォーラムは、こうした問いを共有し、今後の研究ロードマップや国際連携の方向性を考えるための場でもあります。気候変動下でコメ生産をどう守り、次の研究や連携につなげていくのかを考える方に、ぜひ参加いただきたいフォーラムです。

 

開催概要および参加登録は、以下の国際農研イベントページをご覧ください。

開催日 2026年10月13日(火) - 2026年10月14日(水)
耐暑性イネ生産システムに関する国際戦略フォーラム及びテクニカルワークショップ
受付期間: 2026年8月17日(月) 14:00 - 2026年10月7日(水) 17:00
場所
10月13日(火): 一橋大学 一橋講堂

10月14日(水): イイノカンファレンスセンター 4階Room B ※対面開催
https://www.jircas.go.jp/ja/event/2026/e20261013

 

参考文献
International Rice Research Institute. IRRI official website.
https://www.irri.org/

CGIAR. International Rice Research Institute(IRRI).
https://www.cgiar.org/research/center/irri/

International Rice Research Institute. “Changing the world with seeds: The breeding history of IR8.”
https://ricetoday.irri.org/changing-the-world-with-seeds-the-breeding-h…

CGIAR. “IR64: the world’s ‘mega’ rice.”
https://www.cgiar.org/innovations/ir64-the-worlds-mega-rice/

CGIAR Genebanks. IRRI Genebank.
https://genebanks.cgiar.org/genebanks/irri/

International Rice Research Institute. IRRI 2025–2030 Strategy.
http://books.irri.org/irri-2025-2030-strategy.pdf

Kato, Y. and Hayashi, K.(2021)“Japan and IRRI: Contributions to International Rice Research for Sustainable Development, Lessons Learned and Ways Forward.” JARQ, 55(Special), 483–487.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jarq/55/Special/55_483/_article

国際農研「耐暑性イネ生産システムに関する国際戦略フォーラム及びテクニカルワークショップ」
https://www.jircas.go.jp/ja/event/2026/e20261013

 

(文責:環境・資源プログラム 林慶一、情報・戦略プログラム 大森圭祐、戦略統括室 飯山みゆき)

 

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