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872. 世界コメ市場をめぐる不確実性

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872. 世界コメ市場をめぐる不確実性

 

7月20日、インド政府が国内価格抑制を目的にバスマティ米以外のコメの輸出禁止を発表したことで、世界価格を高騰させる懸念が高まりました。また、エルニーニョ現象による天候不順のコメ生産への影響もコメ価格動向への不確実性要因となっています。

10月2日、国際食料政策研究所(IFPRI)は、世界コメ市場に関する論説を発表しました。

論稿によると、7月下旬のインド政府によるバスマティ米以外のコメの輸出禁止を発表以来、タイ・コメ価格は14%、ベトナムのコメ価格は22%、インドにおける白米価格は12%上昇しています。8月、さらにインドはパーボイルド米輸出関税に20%の追加料金、バスマティ米に最低販売価格を課しました。

インドによる輸出規制はカナダやアメリカでパニック買いをもたらし、世界第五位のコメ輸出国であるミャンマーも45日間のコメ輸出規制を発表しました。9月1日、フィリピンはコメ小売価格の高騰を抑えるための措置を発表。コメ価格の高騰を懸念して、8月のアセアン諸国会議では、自由な農産物取引保証へのコミットメント宣言が発表されました。

2022年にインドからバスマティ米以外のコメを多く輸入していた15か国中、9か国がサブサハラアフリカ諸国です(マダガスカル、ベニン、アンゴラ、ケニア、コートジボワール、カメルーン、モザンビーク、トーゴ、ギニア)。これらの国の多くは純輸入国かコメの主要生産国(重要な主要作物を補完するために輸入)でもあり、インドに代わりタイ・ベトナム・パキスタン・ミャンマー・アメリカなど価格の高い国から輸入せざるを得ない場合も含め、食料安全保障の危機に直面しかねません。インドはまた、ネパール、ベトナム、マレーシア、アラブ首長国連邦、スリランカなどのアジア諸国にもバスマティ米以外のコメを輸出しています。

2007・08年の食料危機の際、タイ・ベトナム・パキスタン(そしてインドも)等の主要輸出国による輸出規制によって、コメ価格は暴騰しました。この8月にASEAN首脳およびASEAN+3(ASEANと日本・韓国・中国で協力する枠組み)が輸出規制を抑制することに合意したことは重要な意味を持ちます。

一方、太平洋地域におけるエルニーニョ現象の影響が、アジアの主要生産国におけるコメ減産をもたらす可能性が懸念されています。とりわけ世界のコメ生産の58%、コメ輸出の80%に相当する南アジア・東南アジアにおいて、今後数か月のエルニーニョ現象がコメ収量に及ぼす影響に注目が集まっています。ただし、不確実性も大きく、これまでエルニーニョ現象は必ずしもコメの生産減に繋がってきた訳ではなく、例えば2018-2019年の減少はコメ生産水準にほとんど影響を与えませんでした。

論稿は、今後2-3か月にエルニーニョ現象のコメ収量へのインパクトが確定することで、コメ市場への全体の動向も明らかになるとし、アジア・アフリカの貧困なコメ消費世帯に打撃を与えた2007・2008年のコメ価格暴騰の再来とならないよう、政府介入を抑制するように訴えました。


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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