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1250. 貿易をめぐる緊張:不確実な時代における食料安全保障の確保

1250. 貿易をめぐる緊張:不確実な時代における食料安全保障の確保
昨今、貿易摩擦が激化し、生産者・貿易業者・そして消費者に新たな不確実性をもたらしています。世界市場の透明性の維持・強化に貢献し、対話を通じた解決策を見出す取り組みを支援している農業市場情報システム(Agricultural Market Information System AMIS)の記事を紹介します。
貿易摩擦は市場に影響を与え、食料安全保障を脅かす可能性があります。AMISが対象としている農産物も、最近の貿易摩擦の影響を免れていません。小麦、トウモロコシ、大豆、バイオ燃料、肥料などは、新たに発表された関税や報復措置の影響を受けています。AMIS参加国の中には、追加措置を発表、あるいは検討中の国も含まれています。
3月下旬時点において、農産物市場は比較的供給が潤沢であるため、最近の政策動向は、これまでのところ世界市場における急激な価格変動にはつながっていません。しかし、AMIS商品やその他の食料・農産物に対する広範な規制が貿易に影響を与えれば、状況は一変する可能性があります。政府が食料品の輸入に課す税金を引き上げれば、価格が上昇し、多くの消費者が必要な食料を購入できなくなるでしょう。
国連5機関の最新の統計によると、2023年には世界で約7億3,300万人(約11人に1人)が飢餓に直面しています。2022年初頭、ロシアのウクライナ侵攻を受けた食料価格高騰後、飢餓人口は急増しましたが、黒海地域からの貿易が再開され、輸入国が他の地域から供給を調達するようになったことで、その後の上昇は緩和されました。
世界食料市場は、適切に機能するのであれば、農家が必要な飼料、燃料、肥料を購入することを可能にし、消費者が安全で十分な量の栄養価の高い食料へのアクセスを維持できるようにします。各国が最近の他の危機を乗り切るのにも役立ってきました。COVID-19パンデミックの間も、農産物貿易は比較的回復力がありました。また、過去数十年にわたり、世界市場は、生産者が世界各地の食料や農産物に対する高まる需要に対応できるよう支援してきました。人口増加と平均所得の上昇に伴い、食料と農産物の貿易量は2000年から2022年の間に5倍に増加しました。
生産者がこうした需要増加に対応するにあたり、関税の段階的な引き下げが重要な役割を果たしてきました。2005年には、農産物の平均実行関税は13%(二国間協定または地域協定を通じて各国が合意した貿易特恵を含む)でしたが、2022年には5.8%に低下しました。今日の農産物貿易は、各国政府が合意したルールの予測可能性と安定性に大きく依存しています。特に重要な基本原則がいくつかあります。(i) 各国は、異なる国の製品を恣意的に差別すべきではない。 (ii) 特定の製品に対する関税は、世界貿易機関(WTO)において各国が遵守することに合意した上限を超えてはならない。(iii) 貿易をめぐる意見の相違が生じた場合、各国は緊張を緩和し、解決への道筋を円滑にするために存在する紛争解決手続きを活用することができ、また活用すべきである。
農業団体や商品作物団体は、最近発生している緊張の迅速な解決を支持する声をいち早く上げてきました。首脳間の対話はまた、各国が直面する課題に対し、相互に合意できる解決策を見出すために協力することで、貿易障壁を回避できる可能性を示しています。
今日、世界の多くの地域が直面している重大な食料安全保障上の課題解決にあたり、より機能的な市場が果たすべき役割は大きいと言えます。穀物や油糧作物、そして肥料などの農業資材の円滑な貿易の継続を確保において、AMIS加盟国は互いに協力することで貢献することができます。AMISは、各国の透明性向上への取り組みを支援し、市場、政策、規制枠組みの継続的な進展に関する情報共有を支援しています。
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)