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1568. 東南アジア連絡拠点だより:タイの珍しい黒い卵「チャイヤー塩漬け卵」
1568. 東南アジア連絡拠点だより:タイの珍しい黒い卵「チャイヤー塩漬け卵」
過去の東南アジア連絡拠点だよりでは、タイの地理的表示(GI:Geographical Indication)登録産品の一例として、ドリアンを紹介しました。
タイ・ラヨーン県産ドリアンのGI登録と品質向上技術
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20260619
今回は、タイ南部の特産品である「黒い卵」、チャイヤー塩漬け卵を取り上げます。地域の自然環境、アヒルの飼養、塩分の浸透を利用した加工技術、そしてGI制度が、食品の品質と地域ブランドの形成にどのように結び付いているのかを紹介します。
タイ南部スラタニ県チャイヤー郡を代表する特産品に、チャイヤー塩漬け卵(Chaiya Salted Eggs / ไข่เค็มไชยา)があります。タイ商務省知的財産局の資料によれば、この塩漬け卵は、スラタニ県チャイヤー郡を生産地域とするGI産品として登録されています。登録資料では、チャイヤー郡で飼養されたアヒルの卵を用い、地域に伝わる方法で加工される塩漬け卵とされています。
GI制度は、名称を保護するだけでなく、産地、原料、製法、品質特性など、その産品を地域と結び付ける条件を明確にする仕組みです。チャイヤー塩漬け卵についても、GIの登録内容に示された生産地域、原料、製法及び品質上の特徴を確認することで、その地域固有性を捉えることができます。
日本にもGI登録された畜産物があり、神戸ビーフ、松阪牛、かごしま黒豚、比内地鶏などが代表例として挙げられます。一方、農林水産省が公表するGI登録産品一覧を確認した範囲では、2026年9月時点で、卵そのものを対象とする登録事例は見当たりませんでした。タイで卵を用いた加工食品がGI産品として地域ブランド化されている点は、加工食品と産地との結び付きを考える上で興味深い事例です。
チャイヤー塩漬け卵の特徴
地理的表示(GI)は、特定の地域に由来し、その品質や評価が自然条件や地域に蓄積された技術と結び付く産品を示す制度です。FAOは、GIを地域の資源や知識を共有の価値として守り、品質保証や農村開発につなげ得る仕組みの一つと位置付けています。チャイヤー塩漬け卵も、地域名、原料、製法、品質を結び付けて理解できる事例です。
原料となるのはアヒルの卵です。チャイヤーでは、アヒルが水田や湿地などを利用して飼養され、エビや貝、小魚などを採食すると説明されることがあります。一般に、卵黄の色や風味は、飼料に含まれるカロテノイドなどの色素の影響を受けます。一方、風味や食感には、飼料に加え、アヒルの品種、飼養条件、卵の成分、加工方法など、複数の要因が関係します。
一般的なタイの塩漬け卵には、塩水を用いる方法があります。一方、チャイヤー塩漬け卵では、地域に伝わる製法として、土、塩、籾殻灰を用いて卵を被覆し、一定期間熟成させる方法が紹介されています。資料によって製造工程の記載には差があるため、土の由来、材料の配合、熟成期間については、GI登録文書などの一次資料で確認することが必要です。店頭では、この黒い被覆を残した状態で販売されることがあります。
この黒い部分は、塩漬け・熟成に用いる土、塩、灰などの混合物です。塩漬けの過程では、濃度差によって塩分が卵殻を通じて内部へ移動するとともに、卵白や卵黄の水分及び成分の状態が変化します。塩漬け卵に関する研究では、熟成に伴うこうした変化が、卵白の塩味や食感、卵黄の固まり方や油分を感じさせる質感などに現れることが報告されています。チャイヤー塩漬け卵についても、原料卵と地域の加工条件の組合せが、その特徴的な食感や風味に関係していると考えられます。
食べ方
食べる際には、まず表面の黒い被覆を水で洗い流してから茹でます。茹で上がった卵を割ると、鮮やかな橙赤色の卵黄が現れます。
現地では、そのままご飯のおかずとして食べるほか、ソムタム・カーオポート・カイケム(トウモロコシと塩漬け卵を用いるタイ風スパイシーサラダ)の具材や、ジョーク(タイ風のお粥)のトッピングとして利用されています。また、濃厚な卵黄は、炒め物やソースの材料としても利用されます。
チャイヤー塩漬け卵は、地域の自然環境、アヒルの飼養、伝統的な加工技術、GI制度が結び付いた産品です。
塩漬けは、水分活性を低下させ、食品の保存性を高める伝統的な加工法です。ただし、塩だけで安全性が保証されるわけではありません。原料卵を衛生的に取り扱い、適切に熟成・保存し、十分に加熱することが、品質と安全性を保つための基本となります。
文責:東南アジア連絡拠点 金森紀仁