Pick Up
1545. 国際マングローブの日に考える持続可能なマングローブ管理の未来 ―MMM7と国際農研主催ワークショップから見える新たな国際連携の展望―
1545. 国際マングローブの日に考える持続可能なマングローブ管理の未来
―MMM7と国際農研主催ワークショップから見える新たな国際連携の展望―
毎年7月26日は、ユネスコ(UNESCO)が定める「国際マングローブの日(International Day for the Conservation of the Mangrove Ecosystem)」です。この日は、気候変動対策、生物多様性保全、沿岸防災および地域社会の持続可能な発展に重要な役割を果たすマングローブ生態系の価値について理解を深める機会として位置付けられています。
この国際デーに先立ち、2026年7月1日から5日にかけて、沖縄県石垣市において第7回Mangrove Macrobenthos and Management Conference(MMM7)が開催されました。MMMは2000年のケニア開催を皮切りに、オーストラリア、スリランカ、米国、シンガポール、コロンビアで開催されてきた国際会議シリーズです。今回は琉球大学の主催により初めて日本で開催され、「Towards Nature Positive Mangroves」をテーマに、世界各国から研究者、実務家、行政関係者が参加しました。会議では、生物多様性、ブルーカーボン、沿岸防災、生態系修復および持続可能な管理に関する研究成果や実践事例が共有されました(https://mmm7.mangroves.info/home)。
マングローブは、世界でもっとも生産性の高い生態系の一つであり、多様な生物の生息地を提供するとともに、高潮や海岸侵食から沿岸域を保護する重要な機能を担っています。さらに近年では、高い炭素吸収・貯留能力を有するブルーカーボン生態系として、気候変動緩和への貢献が注目されています。MMM7においても、これらの生態学的機能に加え、地域社会の生計向上やガバナンスのあり方を含めた総合的なアプローチの重要性が議論されました(図1)。
こうした国際的な議論を、東南アジアにおける具体的な保全・修復の実践や政策連携につなげることを目的として、国際農研はMMM7終了後の7月6日に、石垣市内において「Mangrove Management Meeting」を主催しました。本ワークショップはMMM7の関連イベントとして位置付けられ、「Integrating Science, Practice, and Policy for Sustainable Mangrove Ecosystems」をテーマに開催されました。研究機関、行政機関、民間企業、NGOなど多様な主体が参加し、東南アジアにおけるマングローブ保全・修復の現状と課題について意見交換が行われました。
本ワークショップでは、MMM7で発表された284件の演題を対象としたAIによるテキスト分析の結果が紹介されました(図2)。この分析結果によれば、現在のマングローブ研究は、生物多様性と生態系機能の理解、ブルーカーボンと気候変動対策、保全・修復・管理技術の開発、リモートセンシングや環境DNAなどの先端技術の活用を主要な柱として展開されていることが示されました。また、研究対象地はフィリピン、マレーシア、インドネシアを中心とする東南アジア地域に集中しており、同地域が世界的なマングローブ研究の中心地であることが改めて確認されました。
Zoological Society of LondonのJurgenne H. Primavera博士による基調講演では、フィリピンにおける長年の実践経験に基づき、科学的根拠に基づくマングローブ修復の重要性が紹介されました(図3)。さらに、フィリピン、インドネシア、マレーシアの研究者からは、各国の修復事例や課題が共有され、単なる植林にとどまらず、水文環境の回復、適切な樹種選定、長期的なモニタリング、地域住民との協働が成功の鍵であることが示されました。また、住友林業株式会社やDeep Forest Technologies株式会社などの民間企業からは、ブルーカーボンクレジットの活用を含む新たなマングローブ保全の可能性について報告がありました。
近年、カーボンクレジット市場の拡大を背景として、マングローブ保全への民間投資に対する期待が高まっています。一方で、炭素吸収機能のみを重視した取組では、生物多様性や地域社会への便益を十分に確保できない可能性があるとの指摘もあります。ワークショップでは、このような課題認識を踏まえ、気候変動対策、生物多様性保全および地域社会への貢献を同時に実現するNature-based Solutions(NbS)の考え方に基づき、科学・実践・政策を結びつける新たな連携のあり方について議論が行われました。
国際農研ではこれまで、インドネシア、フィリピン、マレーシアなどの研究機関と連携し、ブルーカーボン評価、生物多様性保全、地域住民の生計向上を含む持続可能なマングローブ管理に関する研究を推進してきました。現在は、インドネシアを対象として、革新的なマングローブ・ブルーカーボン管理を通じて気候変動対策と地域社会の持続的発展の両立を目指すSATREPSプロジェクト「NbSとしての革新的なマングローブ・ブルーカーボン管理を通じたNDC目標推進プロジェクト(代表:諏訪錬平)」の準備が進められています。
以上を踏まえると、MMM7および本ワークショップで得られた知見やネットワークは、今後の国際共同研究のさらなる発展に向けた重要な基盤になると考えられます。また、国際マングローブの日は、マングローブが単なる沿岸林ではなく、気候変動、生物多様性、食料安全保障および地域社会の持続可能な発展を支える重要な社会生態システムであることを再認識する契機でもあります。石垣島で開催されたMMM7および国際農研主催のMangrove Management Meetingは、その未来に向けた国際協力と知識共有の重要性を改めて示したものといえます。今後も、科学的知見に基づく国際連携を通じて、マングローブ生態系の保全と持続可能な利用がさらに進展することが期待されます。
文責:諏訪錬平(林業領域)


