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1060. 「ドーナッツ」の測定:プラネタリー・バウンダリー内で全人類にまともな生活を保障することは可能

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1060. 「ドーナッツ」の測定:プラネタリー・バウンダリー内で全人類にまともな生活を保障することは可能

人類は、生態学的に不安定な状態へと突き進んでいます。人類による資源搾取はかつてないレベルに達している一方、世界には未だにまともな生活を送れていない人々も多く存在します。地球システムが自らの回復力・強靭性  を維持できる限界としてのプラネタリー・バウンダリー概念では、「人類が安全に活動できる領域 (a safe operating space for humanity )」が提案されています。一方、地球システムの強靭性と人類の厚生は分かちがたく結びついており、非持続的な資源の搾取・濫用の程度は、社会的経済的要因による部分も大きく、地球システムへの影響は国・社会層によって様々です。このため、安全性および公正という観点から地球システムの限界を定義し、グローバルのみならず地域レベルで評価する必要性も提案されてきました。

しかし、現状の人口動向および技術水準で、安全で公正な領域内での状況が達成できるかどうかについてのエビデンスは、これまで限られてきました。

Journal of Cleaner Production誌で公表された論文は、自然環境を破壊することなく社会的正義(貧困や格差などがない社会)の実現を提唱したドーナツ経済学の概念を適用し、全人類にとって地球システムを攪乱することなくベーシックニーズを充足することが可能な、安全で公正な領域が存在するかどうかの検証を試みました。そのために、様々な技術進歩シナリオのもと、ベーシックニーズを満たすための物質・エネルギー必要量をモデル化しました。

本研究は、ベーシックニーズを代表する財のバスケットに関する環境インパクトを、初めてライフサイクル分析を通じて分析し、プラネタリー・バウンダリーとの関係で評価しました。その結果、104億人のベーシックニーズを充足することは理論的には可能であるが、安定的な気候条件を保障するには、二酸化炭素排出・生物多様性喪失・生物地球化学的循環の制約を鑑みて、全ての経済セクターにおける大規模な構造転換および食生活の変化が必要になるとしました。

論文は、とりわけ、農業慣行の改善と物質循環の向上につながる研究投資を通じ、二酸化炭素排出量、生物多様性喪失、リン・窒素関連の排出を大幅に削減する必要性を示しました。論文はまた、エコシステムサービス提供システム・生活充足ニーズ・環境インパクト・地球システムバウンダリーには大きな地域差があり、こうした地域差ごとの課題に対応した研究の重要性も強調しました。

 

(参考文献)
Hauke Schlesier et al, Measuring the Doughnut: A good life for all is possible within planetary boundaries, Journal of Cleaner Production (2024). DOI: 10.1016/j.jclepro.2024.141447
https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2024.141447

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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