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947. プラネタリー・コモンズ

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947. プラネタリー・コモンズ

 

プラネタリー・バウンダリー概念を提唱したJohan Rockström博士ら著名な研究者らが、1月22日にPNAS誌に論文を公表、プラネタリー・コモンズという新たな概念を提案し、地球の強靭性と正義を回復し強化するための地球システムガバナンスの必要性を呼びかけました。その内容を紹介します。

人新世は、地球システムが不可逆的でコントロール不能なシフトを伴う未知の航路を進んでいくことを意味しています。地球システム科学は、人類の政治・経済・その他社会システムが地球を搾取するにあたり生物物理学的な制約があることを示しています。これら限界を超えると、生命を支えるシステムは破綻し、地球全体が定常状態から不可逆的に乖離しかねません。既に針葉樹林・熱帯林・サンゴ礁・湿地帯などの重要な生物圏が影響を受けています。人新世の時代、地球システムは急激に強靭性を失いつつあり、より効果的なガバナンスのための協調が求められています。

主権国家の管轄を超え、地球システムを制御する機能をより効果的かつ包括的に守っていくアプローチが緊急に必要とされています。その意味では既に地球規模で人類が共有している資産・国際公共財を指すグローバル・コモンズ概念がありますが、その概念が前提としていた完新世と人新世では、地球環境を取り巻く状況は大きく異なります。したがって、人新世のダイナミックスに合わせて、地球システムの安定と制御に極めて重要な機能を持つ生物物理学的システムをプラネタリー・コモンズとし、公共財として維持していく必要性があります。

プラネタリー・コモンズは、地球システムの「圏(’spheres’ - 大気圏・水圏・生物圏・岩石圏・雪氷圏)」、地球の制御に欠かせないサブシステム -ティッピング・エレメント- およびその他の重要なシステムから構成されています(論文・図2)。先日の記事で触れたアマゾン盆地の熱帯林も、ティッピング・エレメントの一つとされており、したがってその機能の破綻は地球システムに不可逆的な変化をもたらしかねません。

地球の強靭性は、生命を維持し正義を保証する基盤であり、全ての地域の人々にとっての共通の関心事項です。国際社会にとっての公共財に対する主権国家の管轄を超えたガバナンスを提唱するグローバル・コモンズのアプローチはいまだに有効ではありますが、人新世の今、地球の強靭性と正義を護るためにも、その概念・アプローチを地球の生物物理学的システム全体に展開する必要があります。プラネタリー・コモンズのフレームワークは、人新世における地球システム維持に向けた喫緊のパラダイムシフトに着手するための道筋を提供してくれるでしょう。

 


(参考文献)
Johan Rockström et al, The planetary commons: A new paradigm for safeguarding Earth-regulating systems in the Anthropocene, Proceedings of the National Academy of Sciences (2024). https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2301531121

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)