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808. 複数の環境ストレス・攪乱要因により人新世のエコシステム崩壊が早まる可能性

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808. 複数の環境ストレス・攪乱要因により人新世のエコシステム崩壊が早まる可能性

気候変動に関する議論では、人新世(the Anthropocene) の時代における人為的な経済活動によって、地球がある時点を境に不可逆性を伴うような劇的な変化を伴うティッピング・ポイント(転換点tipping point)に達しつつあるとされています。

ティッピング・ポイントは、小さな攪乱要因によりシステムの状態が質的に変わってしまう閾値とも定義されます。研究者らは、ティッピング・ポイントを超えてしまいそうな大規模なサブシステムとして、グリーンランドの氷床融解をはじめ、永久凍土の融解、南極氷床の融解、アマゾン森林破壊、などを挙げています。一つのサブシステムにおけるティッピング・ポイントは他のサブシステムに波及して、ドミノ倒し的な影響をもたらすことが懸念されています。

20年ほど前は、気候システムの大規模な非連続性が起きるのは温暖化が産業革命と比べて5℃以上超える場合と想定されていたそうです。しかし、最近の議論では、ティッピング・ポイントは1-2℃の気温上昇で起こりかねないとし、これを受け、パリ協定では温暖化を2℃以下、可能な限り、1.5℃以下に抑えようという方向になっています。

 

研究者がティッピング・ポイントに到達するまでの経緯を現実の世界に合わせたモデルで評価する際、システムに変化をもたらす複数の人為的活動からの負荷(ストレス)・要因(ドライバー)の間のフィードバックをいかに取り扱うかが問題になるそうです。直感的には、ストレス水準が高く、ストレスの数や攪乱が多いほど、エコシステム崩壊の閾値に達する期間は短くなると予想されます。アマゾンを例にとると、まず森林破壊からはじまり、森林破壊に温暖化が加わり、さらに干ばつや野火などの極端現象を通じた攪乱が加わり、それらのフィードバックも加わって、エコシステム崩壊は早まることが想像できます。一方、こうした研究やエビデンスは極めて限られてきました。

 

こうした問題意識を受け、6月22日にNature Sustainability誌で公表された論文は、人為的経済活動による温暖化・環境負荷・極端現象などの攪乱要因など、複数のストレスが相関しあうことで、エコシステムが崩壊する時期がさらに早まる可能性について警鐘を鳴らしました。

論文は、ティッピング・ポイントといった概念に代わり、あるべきシステム常態からの量的・質的崩壊を示す急激な閾値依存変化(abrupt threshold-dependent changes :ATDCs)に着目します。その上で、複数の環境負荷の相互作用のダイナミックスが、システムの急激な変化をもたらす影響を、人為的な影響が複雑な作用を示す4つのエコシステムモデル(インド・オリッサ州チリカ湖をモデルとした漁業とストックの関係、イースター島を例とした人口モデル、リンによる湖沼の富栄養化モデル、森林の立ち枯れに関するモデル)、でシミュレーションを行いました。その結果、主要な環境ストレスが強まるほど、さらに複数のストレスや攪乱要因が加わるほど、エコシステムの崩壊が38-81%早まる可能性を示唆しました。一方、主要なストレスとそれ以外のストレスがシステムに与える影響は、システム毎に異なることが示されました。

 

論文は、エコシステムは我々が想定するよりも速いスピードで劣化しうる可能性がある一方、ストレスの相互依存の影響や経緯はシステム毎に異なるとし、現実世界におけるティッピング・ポイントへの対応を講じる上で、様々な状況を想定した研究の必要性を訴えました。

 

(参考文献)
Willcock, S., Cooper, G.S., Addy, J. et al. Earlier collapse of Anthropocene ecosystems driven by multiple faster and noisier drivers. Nat Sustain (2023). https://doi.org/10.1038/s41893-023-01157-x

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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