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634. 気候変動がもたらしうる文明崩壊への危機

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634. 気候変動がもたらしうる文明崩壊への危機

気候変動は地球上のかなりの地域での居住可能性、さらには文明社会の存在そのものを脅かすことが懸念されています。PNAS誌において、気候変動によって文明社会が崩壊する可能性の研究の必要性を訴えた科学者による意見記事が公表されました。

著者らは文明の崩壊を、安全保障・法の秩序・食料や水といった生活に必須な財・サービスの提供に関する基本的なガバナンス機能を維持する能力を社会が喪失した状態、と定義します。文明崩壊は、暴力や紛争、極度の欠乏状態をもたらすことで、人類にきわめて負の影響をもたらします。  

著者らは、段階的に深刻さを増す3つの崩壊シナリオを検討しています。

  • 特定の脆弱な地域の崩壊
  • 一部の都市や国が崩壊に至り、残りの地域は食料・水不足など気候関連の負の影響を被るケース
  • 世界中で都市が放棄され、機能している国家というものがもはや存在せず、世界人口が減少するようなグローバルな破綻


気候変動による文明の崩壊が時間・空間的に異なるプロセスで進行する可能性は、倫理的・科学的に複雑な問題をもたらします。倫理的な例として、気候変動が世界的な惨事であるにもかかわらず、1.5℃の気温上昇を耐えられない崩壊リスクとみなすかについてモルディブとカナダで異なるような状況では、利害関係バランスの調整に倫理的な課題を伴います。また、科学的な視点からすると、歴史学者や考古学者によって文明崩壊の地域的な事例が研究されてきましたが、これら地域的なケースが世界的な崩壊に展開するかどうかのメカニズムは、不確かな推論にすぎない可能性もあります。

崩壊のリスクをもたらす旱魃・洪水・極端な熱波など気候変動による直接的な影響に対し、メカニズムについてはこれまで十分研究されてきませんでした。著者らは、気候変動は貿易や国際協力にも間接的な影響をもたらし、政治的な紛争、機能不全、戦争にも影響を及ぼすことを指摘しています。こうした影響は、文明社会の適応能力を弱体化させ、パンデミックなどのショックへの脆弱性を高めます。

著者らは、気候変動がもたらす文明崩壊危機のメカニズムを科学的かつシステマチックに分析することの重要性を主張しました。

 

(参考文献)
Daniel Steel et al, Climate change and the threat to civilization, Proceedings of the National Academy of Sciences (2022). DOI: 10.1073/pnas.2210525119

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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