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109. ビル・ゲイツ ― 新型コロナウイルス感染症は悲惨であるが、気候変動はそれ以上の影響をもたらしうる

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2020年8月4日、ビル・ゲイツ氏はブログを更新しました。ゲイツ氏は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)は悲惨であるが、気候変動はそれ以上の影響をもたらしうるとし、現在の危機からの教訓を引き出すべきとしました。

COVID-19パンデミック抑制のための経済活動の規制により、一時的に温室効果ガス排出は低減したものの、昨年比で8%しか下落しておらず、文字通り大きな経済的コストを伴っています。

経済学者の推計によると、100万ドル相当の技術が1万トンのガス排出を回避できるとすれば、カーボン削減一トン当たり100ドルというコストが、割高ながらも温室効果ガスが社会にもたらすコストを反映しており、議論を促すベンチマークになると考えています。COVID-19による経済封鎖によるカーボン排出削減のコストは、アメリカで1トンあたり3200-5400ドル、EUでも同程度と推計されており、エコノミストが合理的な価格とする1トンあたり100ドルの32-54倍もかかっていることになります。COVID-19の拡散抑止が長期化した場合の損害を見れば、気候変動がもたらす損害の規模を想像することも容易でしょう。

2020年のCOVID-19と2060年の気候変動で犠牲になる人的損害の比較推計は難しいですが、死亡率でみるとどうでしょうか。(8月4日執筆前の時点で)COVID-19による犠牲者の数は世界で60万人以上、年率に直すと10万人あたり14人の死亡率に相当します。2060年までは気候変動とCOVID-19の被害は同程度ですが、2100年には気候変動の方が5倍悪化すると予測されています。同様に、経済的損害も、気候変動と同様、あるいは長期的にはより莫大な損失をもたらすとされています。

COVID-19から学べる教訓は、重要なことは気候変動そのものの損害規模よりも、後回しにすることの帰結について十分な情報をもって行動し、次の危機に備えるべきであるということです。とりわけ、以下の行動をとるべきです。

まず、科学やイノベーションに基づいて行動すべきであること。単に移動を減らすだけではゼロ排出は達成し得ません。コロナウイルスに対するテスト・治療・ワクチンが必要とされるように、気候変動への対応も新たなツールが必要です。それらは、発電、生産、食料生産、建物の温度調整、世界中のヒト・モノの移動、に関するゼロ・カーボン方法を模索することです。そして、とりわけ途上国の小規模農民に代表される貧困な人々に新たな種子やイノベーションへのアクセスを提供することで、不確実な気候に適応するのを助けるべきです。

また、気候変動に包括的に対応するには、生物学、化学、物理学、政治学、経済学、工学、そのほか異分野連携が重要です。COVID-19以上に、気候変動から最悪の被害を被ることが予想される貧しい国々に適した解決策も必要です。クリーン・エネルギーへの投資についても、途上国の人々がアクセス可能な仕組みが必要です。

今すぐ行動を開始しなければなりません。ワクチン開発を来年頃に見越すことができるコロナウイルスと違い、気候変動は2年間で解決できるものではなく、数十年間の努力が必要です。医療関係者はずっとパンミックは不可避であると言い続けてきました。世界は準備不足で失われた時間を取り戻さなければなりません。気候変動では同じ誤りを繰り返すことなく、直ちに行動を起こすべきです。

参考文献

GatesNotes. COVID-19 is awful. Climate change could be worse. But there are lessons from the current crisis that should guide our response to the next one. By Bill Gates| August 04, 2020 https://www.gatesnotes.com/Energy/Climate-and-COVID-19 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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