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296. 気候変動が農業にとっての安全な活動領域に及ぼしうる影響

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021年5月、OneEarth誌に公表された論文は、最悪の気候変動シナリオのもとで、世界の食料生産の3分の1相当が、農業生産に適した安定的な気候空間からはみ出てしまう可能性を発表しました。以下、論文の概要を紹介します。


エコシステムと人間社会は、過去数千年間の間、比較的安定的な「完新世(Holocene)」気候に適応してきました。現代の食料生産はこのような条件のもとで発展してきました。しかし近年、世界的な環境変化や気候変動が加速し、気温や降雨の変化や乾燥化が食料生産に影響を及ぼすようになってきています。


プラネタリーバウンダリー論におけるSafe Operating Space (SOS)は、「地球システムが自らの回復力 (resilience) を発揮することによって基本的な機能を維持できる、いわば人類が安全に活動できる領域」を指します。2020年の論文(Xu et al.)によると最悪の気候変動シナリオの下では、人類のかなりの割合の人々が気候ニッチを超えた気温条件に押しやられる可能性について示唆しました。


多くの研究が気候変動のもとでの農業条件の変化、とりわけ収量へのインパクトを分析していますが、人間にとっての気候ニッチ概念と同様に、「農業にとっての安全な活動領域SOS」を定義する必要があります。本論文は、複数の気候の特質の変化を同時に測定する方法の一つである、Holdridge life zone(HLZ)概念に言及しました。作物生産・家畜生産の双方に重要な役割を果たす年間降雨量(annual precipitation)、気温(biotemperature)、乾燥度(aridity)の3要素に基づき地球を38ゾーンに分類するHLZ概念は、これまでもバイオマス推計等に用いられてきました。本論文は、HLZ概念に沿って3つの指標を統合することで、SOSや気候ニッチに順ずる概念として、食料生産(作物生産・家畜生産のそれぞれ)が適応可能であるというSafe Climatic Space(SCS)を定義しました。そのうえで、著者らは、気候変動によって生じうる今後80年間のHLZへの変化と27主要作物生産・7主要家畜生産と、人類の変化に対するレジリエンスを考慮し、分析を行いました。


分析によると、温室効果ガス排出の急激な増加シナリオのもとで、HLZのシフトが生じ、ツンドラ地域と寒帯森林地域が減少し、寒帯砂漠・温帯砂漠地域が増加することが示唆されました。この推定のもとでは、作物生産の31%、家畜生産の34%に相当する、世界の食料生産の3分の1が2081-2100年までにSCSからはみ出てしまいます。最も脆弱であると予測されるのは、南アジア・東南アジア、アフリカのスーダンサヘルゾーンなど、気候変化へのレジリエンスがもともと低い地域です。この分析結果は、温室効果ガス排出を抑制するシナリオにコミットする重要性を意味しています。


国際農研の環境プログラムでは、東南アジア地域における農業分野の総合的気候変動対応技術の開発(気候変動総合)、アフリカや南アジアの砂漠化地域における極端気象下での持続的土地管理法の開発(持続的土地管理)を、また食料プログラムにおいては、レレジリエンス強化作物とその生産技術の開発、アフリカのための稲作を中心とした持続的な食料生産システムの構築(アフリカ稲作システム)、アフリカ小規模畑作農業の生産性・収益性・持続性を向上させる畑作システム支援ツールの構築に向けた技術開発(アフリカ畑作支援)、といったプロジェクトを実施しています。 開発途上国地域における研究機関と共同で技術開発を行うことで、国際農研は科学技術を通じた気候変動対策と食料安全保障への貢献を目指しています。

*(以下、Wikipediaより )完新世(かんしんせい、Holocene)は地質時代区分(世)のうちで最も新しい時代である。第四紀の第二の世であると同時に、現代を含む。最終氷期が終わる約1万年前から現在まで(近未来も含む)を指し、その境界は、大陸ヨーロッパにおける氷床の消滅をもって定義された。

参考文献
Matti Kummu et al, Climate change risks pushing one-third of global food production outside the safe climatic space, One Earth (2021). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2590332221002360

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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