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690. 食料システムの再構築に必要なコスト

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690. 食料システムの再構築に必要なコスト

先日のPick Up記事では、持続的農業や将来の食料システムの在り方について関係者の間で意見の違いがあることを取り上げました。そのほかにも、食料システムの転換を推進する上での制約として、食料システムを強靭で持続的なシステムに再構築するにあたり、世界的に必要とされる投資額についての情報が限られていることが挙げられます。

こうした背景を受け、最近Global Food Security誌で公表された論文は、 食料システムの再構築に必要なコストの推計を試みました。論文は、公表済みの報告書に基づき、食料システム転換に必要な事項を4分野11アクション*に分類した上で、実施に必要とされる総コストを年あたり1.3 ± 0.1 兆ドルと推計しました。

総コストのおよそ半分は、森林や泥炭地の農地転換の回避に必要なコストであり、残りは、生産者の直面するリスクの削減、温室効果ガスの削減、変化を可能にするための政策・金融・イノベーションの強化、といったアクション関連のコストが続きます。論文は、1.3 兆ドルと一見膨大に見えるコストも、COVID-19パンデミック発生後最初の4か月で実施された財政出動額の15%に過ぎないとします。あるいは、現在の食料システムが毎年もたらす負の外部性の7%に相当するコストを負担しなければ、莫大な環境・健康被害が生じるとしています。逆に、健康な食生活の実現により、年あたり1兆ドル相当の医療コストや、年あたり7兆ドル相当の環境被害の削減 - 農地転換によるカーボンや生物多様性喪失の回避にとどまらず、大気汚染や海洋汚染の削減 ― が期待されるとのことです。食料廃棄やロスを削減するだけで毎年2.6兆ドルのコスト削減にもつながると推計されています。

 

食料システムの再構築に必要とされる政策・科学技術イノベーションをおさらいしておくために、以下、論文をもとに*4分野11アクションの概要をまとめておきます。

 

分野1:路線変更(Reroute)
アクション1.1: 世界で2.5億ヘクタール相当の森林・4億ヘクタール相当の泥炭地の農地転換回避
アクション1.2: 市場・公的分野による気候に強靭で低温室効果ガス排出を可能にする慣行への投資誘導(農家による改良種子・肥料・土壌改良剤や小規模灌漑等の採用含む)
アクション1.3: インフラ投資や農業への参入・退出を容易にする農村活性化

分野2:リスク除去(De-Risk)
アクション2.1: 早期警告システム・適応セーフティーネットを通じた生活保障
アクション2.2: 農家への選択肢拡大(農家・アグリビジネスをICT・デジタルサービスに接続)

分野3:削減(Reduce)
アクション3.1: 健康で持続的で気候に優しい食生活への移行
アクション3.2: 食品ロス・廃棄物の削減

分野4:再編(Realign)
アクション4.1: 食料システム転換を可能にする政策・制度変更
アクション4.2:持続可能な金融のための官民資金解放 
アクション4.3: 持続可能な意思決定のための社会変化推進
アクション4.4: 社会的インパクトをもたらすためのイノベーション・システムの転換


(参考文献)
Philip Thornton, Yuling Chang, Ana Maria Loboguerrero, Bruce Campbell, Perspective: What might it cost to reconfigure food systems?, Global Food Security, Volume 36, 2023, https://doi.org/10.1016/j.gfs.2022.100669

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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