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689. 2023年を迎えて
689. 2023年を迎えて
2023年が始まりました。
Nature誌は2023年に注目すべき科学ニュースをあげる中、気候変動関連では、ドバイ開催予定の国連気候変動枠組条約第28回締約国会議COP28に向け、昨年のCOP27で合意された「損失と損害」ファンドを通じた先進国から途上国への資金提供の仕組みについて具体的な議論が行われるとしています。
そのCOP27においては、Nature Food誌の論説が、気候変動枠組みの議題として初めて食料の問題が公式に取り上げられたものの、持続的農業や将来の食料システムの在り方について関係者の意見の違いが浮き彫りになったことを指摘しています。 論説によると、先進国はより持続的な食料購買行動、テクノロジー、気候にやさしい食生活、といったテーマを取り上げる一方、途上国の多くは、飢餓、イールドギャップ(持続的な収量向上)、気候変動やサプライチェーン寸断に対する農家の強靭性を高めるメカニズムへのファイナンス、について提起しました。ブラジル・コンゴ民主共和国・インドネシアなどの国土の多くを森林が占める国々は、農業による森林破壊や生物多様性喪失といったテーマを取り上げました。
最終的に、COP27における農業分野交渉の合意文書においては、食料の供給面にフォーカスがあてられ、食料システムの言葉は外され、食料廃棄やロス、非持続的な消費パターンといった需要面については盛り込まれなかったとも報じられています。また、世界の温室効果ガスの排出に貢献していないにもかかわらず気候変動や食料安全保障への影響を被る途上国や、気候変動関連金融の対象から取り残される小規模農家、等の課題が残ったとされています。
Nature Food誌論説は、この背景に、持続的農業や食料システムが将来あるべき姿についての合意がなく、関係者の間での議論がかみ合っていないことを指摘しました。COPの場において、食料‐気候ネクサスを視える化することは、栄養ある食を提供する強靭で持続的な食料システムの構築に向けた具体的な道筋に繋がることが期待されますが、さらなる議論や調整が必要なようです。
国際農研は、開発途上国地域の農業技術開発、ならびにグローバルアジェンダに関する情報収集をミッションとしています。国際連携の実現にあたっては、世界の食・農業の在り方の多様性を認め、各国・地域の事情に寄り添う科学技術アプローチの適用に向けた科学―政策対話が必要となります。2023年も、地球規模課題の取り組みとして食料システムに関する情報発信を続けてまいります。本年もPick Upをどうぞよろしくお願いいたします。
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)