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686. ロックダウン期間における大気中メタン濃度上昇の要因

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686. ロックダウン期間における大気中メタン濃度上昇の要因

2022年も終わりに近づいていますが、異常気象が多く観察された年でした。先週から週末にかけて日本は寒波に見舞われましたが、アメリカでも北極海の爆風(arctic blast)が国土の広範囲を覆い、歴史的な寒波による社会的混乱がクリスマス休暇を直撃したと報じられています。北極海は気候変動でとくに影響を受け、世界の異常現象にインパクトを及ぼすことが知られています。温室効果ガス排出の削減努力が強く求められています。

温室効果ガスの中でもメタンは非常に強力なガスとされ、大気中メタンの発生源には、湿原等の自然由来のものと、農業・化石燃料採掘・埋立地や廃棄物・火災等の人為的活動由来のものがあります。メタンは一旦大気に排出されると、OHラジカル(hydroxyl radicals)との反応によって分解・消失するまで平均で9年間とどまるとされています。メタンは人為的活動に起因する大気中の温室効果ガスの5分の1に相当し、産業革命以前比で今日の大気中のメタン濃度は3倍近い水準に達しています。 

以前Pick Upでも紹介した2021年5月に公表の『グローバル・メタン・アセスメント』によると、COVID-19パンデミックにより2020年に経済が減速し、二酸化炭素(CO2)の排出量が記録的な年にならなかったものの、大気中のメタンは記録的なレベルに達したことが米国海洋大気庁(NOAA)のデータにより示されたとしています。

2020年のメタン大気中濃度の上昇率は、2007-19年の年間平均上昇率の倍近い値をとりました。当初、科学者らはCOVID-19パンデミック下の経済停滞を踏まえれば不可解な現象であると考えていたと伝えられています。今回Natureで公表された論文は、2020年における大気中メタン濃度の急激な上昇の原因について、北半球における暖かく湿った天候と、皮肉にもCOVID-19パンデミック抑制のためのロックダウンでメタンを分解する大気中の汚染物質(OH)排出が鈍化したこと、が背景にあると指摘しました。

Nature論説は、世界のメタン濃度を決定づける発生源・吸収源・フィードバックの複雑なメカニズムを予測することは難しく、さらなる観察を可能にするセンサーや衛星のネットワークに支えられたデータと地域ごとの精緻なモデルが必要と述べています。

 

最近Pick Upで紹介したように、今年11月、世界気象機関は、メタン濃度が2020年から2021年の変化率で最大の上昇を更新したと発表しました。原因はまだ明らかではないとしつつ、温暖化が進むことで酸素のない状態での水中の有機物の分解が早くなりメタン排出が進むという気候変動フィードバックがおこる可能性に言及していました。こちらについても現象を説明する要因の分析が求められています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオ分析によると、2030年までに、その他の温室効果ガス排出の削減と合わせ、世界のメタン排出は40-45%削減されなければなりません。他方、メタンは何世紀にもわたって大気中に存在する二酸化炭素とは異なり、分解されやすく10年後にはほとんどがなくなってしまうため、短期的には地球温暖化の速度を急速に減少させることが可能です。『グローバル・メタン・アセスメント』報告書は、人間活動に起因するメタンガスの排出量は、現在既にある技術や手段を通じて、次の10年間に最大45%削減することができ、その結果、気候変動に関するパリ協定に沿って世界の気温上昇を1.5℃に抑えることができるとしています。

農業部門におけるメタン発生源は家畜の堆肥や消化管内発酵水田稲作ですが、収量を維持しながらメタン発生を抑制する技術の開発が求められています。国際農研もパートナーと連携してメタン発生抑制技術開発と持続性・収量性評価を行うための国際共同研究を行っています。

 

(参考文献)
Nature 612, 413-414 (2022) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-04352-6
Peng, S., Lin, X., Thompson, R.L. et al. Wetland emission and atmospheric sink changes explain methane growth in 2020. Nature 612, 477–482 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-05447-w

    
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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