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577. 年間を通じた間断かんがい(AWD)は農家の利益向上と温室効果ガス削減に寄与 ―気候変動の有望な緩和策および適応策としてアジアモンスーン地域への展開に期待―

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577. 年間を通じた間断かんがい(AWD)は農家の利益向上と温室効果ガス削減に寄与

ベトナム南部に位置するメコンデルタは、肥沃な低地が広がり降水量も多く、国内最大の水稲作地域です。近年、イネの品種改良や氾濫防止用の高堤防整備によって、三期作栽培が行われるようになり、コメの作付面積が拡大しています。作付面積の拡大は、食料需要に応える有効な手段ですが、メタンをはじめとする温室効果ガス(GHG) 排出と水需要への対応策が求められています。

水田では、土壌内部が酸素のない嫌気的な環境になるため、嫌気性微生物の働きによりメタンが生成され、大気に放出されます。日本国内では、イネの生育途中に落水して土壌を乾かす中干しを行うことでメタン発生の抑制効果があることは知られています。一方、間断かんがい(AWD)は、播種後10~20日目までの10日間、施肥時期と開花期を除き、落水により水田の土壌を地表面から15cm程度乾燥させた後、5cm程度湛水する作業を一作期中に数回繰り返す水管理技術です。これによって土壌に酸素が供給され、メタン排出量が抑制されることから、多期作を行うアジアモンスーン地域では、かんがい水使用量とGHG排出量を同時に減らす技術として注目されています。

国際農研は、みどりの食料システム戦略 や、グローバル・メタン・プレッジなどを踏まえ、気候変動適応に貢献するためにアジアモンスーン地域でのAWDの更なる普及を目指した研究を実施しています。これまで、メタン削減、かんがい用ポンプ運転経費削減や収量増加など、AWD実施によるメリットは、国際農研をはじめ多くの研究者により報告されてきました。一方、AWDのデメリットとして、一酸化二窒素の増加や雨季の排水用ポンプ運転経費の増加が報告されています。しかし、農家の利益やGHG排出への影響を包括的に考慮した評価はほとんど行われておらず、AWDを通年実施するメリットは明らかではありませんでした。

そこで、国際農研では、ベトナム・メコンデルタに位置するアンジャン省の農家調査データを用い、通年のAWD実施による農家利益とGHG排出量削減の効果を評価しました。ここでは、GHG排出量削減効果は、ライフサクルアセスメントにより計算しました。その結果、年間を通じてAWDを実施した場合、農家の利益はAWD未実施農家と比べ6%増益すること、また、GHG排出量は38%削減することを明らかにしました。

水田稲作からのメタン排出削減が課題となっている中、本研究で得られた結果は、通年のAWD実施効果を裏付ける資料として用いることができます。年間を通じたAWDの実施は、農家の増益と農業からの環境負荷軽減を両立するコベネフィットな農業システムであり、アジアモンスーン地域における気候変動の有望な緩和策および適応策として期待されます。

 

本研究の成果は、科学雑誌「Journal of Cleaner Production」オンライン版(日本時間2022年4月4日)に掲載されました。

 

(文責:社会科学領域 レオン愛、農村開発領域 泉太郎)
 

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