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598. 肥料価格の国際動向、肥料有効活用のイノベーション

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598. 肥料価格の国際動向、肥料有効活用のイノベーション

2月のロシアによるウクライナ侵攻以前から、燃料価格の上昇を受けた化学肥料の高騰が懸念となっていました。 肥料価格の高騰は、生産者に次期以降の作付や収量や収益に影響を及ぼすことで、中期的に世界食料需給を逼迫させる可能性があります。

7月下旬、世界銀行のブログにて、肥料価格の高騰が食料危機を長引かせることをいかに回避すべきか、という論考が発表されました。

とくに天然ガス価格の高騰がアンモニア生産の縮小につながり、その結果として窒素肥料原料不足が問題となり、同時期に中国ではアンモニア生産の原料となる石炭価格の高騰が肥料生産を減退させたことが、世界的な肥料価格高騰に繋がりました。

食料危機を回避するには、生産者による肥料へのアクセスと適正な価格を保障する必要があります。ブログでは、幾つかの方法を提案しています。

まず1つ目は、肥料の輸出規制を撤廃し、とりわけ食料安全保障の危機と飢餓に直面する貧しい途上国への最悪の危機を避けることが必要です。

2つ目に、肥料利用の効率化を進める必要があります。これは、農家による過剰使用を奨励しないようなインセンティブを与えることを通じて可能となります。現在、窒素肥料の効率性は一般に、30-50%とも言われており、EU専門家パネルは90%までの改善を推奨しています。肥料への補助金が過剰使用を奨励し、環境・気候変動に貢献する事態になってしまっています。効率的な使用を保障することで、必要な国への肥料提供が可能となります。豊かな国ではヘクタール当たり100キロ以上の肥料を使用、途上国の倍近い量ですが、サブサハラアフリカではヘクタールあたり15㎏にとどまっています。

3つ目に、肥料使用あたりの生産性向上を可能にするベストプラクティスや技術を開発するイノベーションに投資すべきです。このためには、特定の作物に対する最適な肥料および量についての知識についての投資も含みます。肥料の有効性を最大化することで土壌の健全性に投資をしなければなりません。精密農業や、灌漑とセンサーを用いた最適施肥量の適用(Fertigation)を通じ、無駄を最小化し、特定の作物の特定の生長段階に必要な量を施肥する技術を開発することがあげられます。もう一つのオプションは、通常の肥料にバイオ肥料や慣行を組み合わせることで、肥料供給制約を解消し、気候・土壌・水資源のインパクトの削減も狙えます。

 


8月30日(火)に国際農研が主催するTICAD8公式サイドイベントでは、アフリカにおける肥料の有効活用・地産地消に関する技術開発への取り組みや、肥料開発・普及に取り組む民間企業・NGOsとともに、アフリカにおける持続的な食料生産向上のための課題について意見を交わします。とくに国際農研がマダガスカル・ブルキナファソで展開してきた肥料有効活用のイノベーションについて紹介します。申し込み締め切りは8月29日(月)です。登録がまだの方は、是非ご検討ください。

 

TICAD8公式サイドイベント「アフリカ農学と土壌肥沃度・貧栄養土壌管理の課題」
日時:2022年8月30日(火) 17:00~19:00(日本時間)
主催:国際農林水産業研究センター(国際農研;JIRCAS)
後援:国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)、独立行政法人 国際協力機構(JICA)
日: https://www.jircas.go.jp/ja/event/2022/e20220830
英: https://www.jircas.go.jp/en/event/2022/e20220830

(文責:食料プログラム 中島一雄、生産環境・畜産領域 辻本泰弘、南雲不二男)

 

マダガスカルの肥料小売店の様子

効率的な水稲施肥技術=リン浸漬処理のマダガスカルでの普及活動の様子

ブルキナファソのリン資源

ブルキナファソには1億トンのリン資源があり、政府の農業関係者は、40年間にわたりリン鉱石を活用することを目指してきたものの、採掘・粉砕したままの製品は低品位質で溶けにくいため、あまり普及してこなかった。

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