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479. 気候変動への対応は待ったなし―世界銀行のベトナム経済見通し報告書より

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479. 気候変動への対応は待ったなし―世界銀行のベトナム経済見通し報告書より

アジアは気候変動のインパクトに最も脆弱な地域の一つです。ベトナムのような国では、気候変動は、食料安全保障のかなめであり、かつ輸出産業でもある農業部門への打撃を通じて、経済的・金銭的被害をもたらします。気候変動のリスクを評価し、適切な適応策・緩和策を講じる必要性があります。 

世界銀行は2022年1月、ベトナムの経済の見通しと気候変動による影響をまとめた報告書「No Time to Waste: The Challenges and Opportunities of Cleaner Trade for Vietnam(無駄にする時間はない:ベトナムにおけるよりクリーンなトレードの課題と可能性)」を発行しました。ベトナム経済の最近の動向を振り返り、経済の短・中期的な見通しについて議論しています。さらに、気候変動が貿易部門に及ぼす影響と課題への対処ついても解説しています。この中で報告されているベトナムの農業分野について、以下にまとめます。

気候変動は、ベトナムの最も重要な輸出産業である工業と農業に影響を及ぼします。農業部門はベトナムの全輸出の13.2%を占めており、その生産と輸出は気候変動、特に気温の上昇、異常気象に対して脆弱です。生産と輸出の大部分は、気候変動に脆弱な沿岸部の低地やデルタで行われており、海面上昇のリスクが高い。気候変動は、高温、塩水の浸入、干ばつ、洪水などを通じて農業生産に脅威を与えています。これらは主要作物の種まきや収穫に影響を与え、米、トウモロコシ、キャッサバ、サトウキビ、コーヒー、野菜などの主要産物の作付面積や収穫量を減少させる可能性があります。特にメコンデルタでは、2040年までに米の生産量が5〜23%減少し、食料不安のリスクを高めており、農家の収入が減少しより弱い立場の人々の食料安全保障が損なわれることが予想されます。また、海面が100cm上昇すると、鉄道の約4%、国道の9%以上、地方道の約12%が影響を受けると推定されています。気候変動による気温、降雨パターン、淡水の利用場所に適応するために、農業生産と農業景観の構成が変わる可能性も示唆しています。

ベトナムでは、農業は製造業に次ぐ温室効果ガス排出源であり、2010年の温室効果ガス総排出量の約33%を占めています。特に稲作と畜産が主要な排出源となっています。ベトナムは世界有数の米の生産国であり、かつ世界第2位の米の輸出国でもあります。しかし、現在の米の生産方法は、温室効果ガスの主要な排出源でもあるのです。ベトナムの米生産から排出されるメタンは、同国の農業排出量の50%以上を占めています。また、家畜生産関連は農業部門からの排出量の32%を占めています。


国際農研は、ベトナムにおいて、気候変動適応に関する様々な共同研究を実施してきました。先日は、気候変動適応策の経済評価に関する論文を発表しました(468. アジアにおける気候変動適応策 ― ベトナム稲作生産における適応策の経済評価)。気候変動緩和技術に関しては、稲作および畜産から排出される温室効果ガス排出削減技術の開発に取り組んでいます。稲作では、間断灌漑技術(AWD)の実証試験に取り組んでおり、温室効果ガス排出を削減し、水稲の収量も増加できることを明らかにしています(337. 環境に優しくお米の収量も増える夢の技術)。
また、畜産においては、カシューナッツ殻液をベトナム在来牛に与えることで、胃の中にいるメタン生成古細菌等の微生物群集のメタン代謝を抑制し、メタン排出量をおよそ2割強削減できることを明らかにしました(カシューナッツ殻液給与によるライシン牛からのメタン排出量削減効果


参考:
No Time to Waste: The Challenges and Opportunities of Cleaner Trade for Vietnam
https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/36819/No-Tim…

(文責:情報広報室 金森 紀仁)

 

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