Pick Up

337. 環境に優しくお米の収量も増える夢の技術

関連プログラム
情報

 

337. 環境に優しくお米の収量も増える夢の技術

近年、温室効果ガスの排出削減の話題が巷を賑わせています。農業分野において、実は牛のげっぷが1番の温室効果ガスの排出源(GHG)なのですが、水田もまたGHGの大きな発生源なのです。これは、田んぼに水を張ることで土の中の酸素が少なくなり、土中の微生物がメタンガスを作るのが原因です。

大気中のメタン濃度は、産業革命から2011年までの間に150%も増加しました。その中で、人間活動に由来するメタンの約11%は、なんと水田から発生しているのです。稲作の盛んなモンスーンアジア地域では、世界のお米の90%が生産されています。ということは、世界の水田から発生するメタンの約90%がこの地域から発生しており、GHG削減技術の普及が切望されています。 

国際農研は、千葉大学、ベトナム・カントー大学と共同で、メコンデルタの水田にGHG排出量を減らす間断灌漑技術を試みたところ、灌漑の水量と温室効果ガス排出を削減し、水稲の収量も増加できることを明らかにしました。

用いた技術は、国際稲研究所(IRRI)が開発し普及させた間断灌漑の一種であるAWD(Alternate Wetting and Drying)と呼ばれるもので、その効果をベトナム南部のカントー市内の水田で検証したところ、通常の栽培方法に比べて、水稲の収量を8.9%も増加できることを示しました。さらに、農家がより容易に取り組めるように、AWDを簡略化した技術MD(Multiple Drainage)の効果をカントー市に隣接するアンジャン省の水田で検証したところ、MDは常時湛水栽培と比較して収量をなんと22%増加させたと同時に、メタンガスの排出量を35%削減できることも明らかにしました。

AWDは、東南アジアの灌漑水田における節水を目的として開発されたことから、水資源が十分でない国や地域で導入が進められてきました。しかし、AWDを導入することで、水田からのメタン排出量は削減できるものの、水稲の収量は同等か減収となることがこれまでの懸念でした。今回調査したメコンデルタ地域は三期作が多く、水田土壌は年間を通して常に酸素が少ない環境にあります。本研究成果により、農家が取り組みやすい間断灌漑の効果も検証できたことから、開発した技術の普及につながると考えています。

今回、間断灌漑でも収量を増加させることが可能になったことから、農家の行動変容につながることが期待できます。ベトナムを含むアジアモンスーン地域は、メコンデルタと同様に水稲作が農業の基幹なため、開発した技術がアジアモンスーン地域の国々で取り入れられれば、収量の増加に加えGHG削減目標の達成に貢献すること可能です。

(参考文献)
Arai et al. (2021) https://doi.org/10.1080/00380768.2021.1929463
Uno et al. (2021) https://doi.org/10.1007/s10333-021-00861-8

(文責:農村開発領域 宇野健一・泉太郎、生産環境・畜産領域 南川和則)
 

関連するページ