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535. 微生物の力で地球に優しい農業を実現

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535. 微生物の力で地球に優しい農業を実現

先月、国際農研の一般公開が開催されました。(https://www.jircas.go.jp/ja/event/2022/openhouse

国際農研職員によるミニ講演がYouTubeサイトでアーカイブ公開されております。本日は、『微生物の力で地球に優しい農業を実現』を紹介します。

世界の人々に十分な食料を供給することは、引き続き人口増加が見込まれる中、人類にとって大きなチャレンジです。2019年の国連報告によると、現在約80億人の世界人口は2100年までに95~125億人に達すると予測され、そのうち70%がアジアとアフリカに集中するとされています。2018年の世界食糧計画(WFP)報告によると、アジアとアフリカにおいて飢餓人口が集中しています。

一方、世界の食料生産を見渡すと、土壌肥沃度・生産性を向上させるために過度の化学肥料を使用したり、耕作地を拡大するために森林を破壊したりしています。こうした農業の在り方は、生物多様性の喪失と、地上・地下水の汚染を伴っています。

特に、窒素肥料は主にアンモニア(NH4)から構成されているが、土壌中においてアンモニアは安定ではなく、一連の反応により硝酸塩(NO3)に変換されます。この硝酸塩は、地下水へと流失して汚染を引き起こし、また脱窒により二酸化炭素(CO2)の約300倍の温室効果をもつ亜酸化窒素(NO2)となります。一方、施肥されたリン肥料は土壌中の成分と反応し、不溶性リン化合物を形成します。これは作物による吸収が困難で、富栄養化を介した土壌汚染へと繋がります。したがって、窒素およびリン肥料はともに高い環境負荷性をもち、「Planetary Boundaries: 地球の限界、Rockström et al. 2009」で懸念されているように、汚染物質や温室効果ガスにより地球の持続性が脅かされています。

これに対し、土壌中、とりわけ作物の根圏(植物の根の分泌物と土壌微生物とによって影響されている土壌空間)に見られる様々な土壌微生物の中には、作物による栄養分吸収に貢献するという、農学的に非常に重要な役割を果たすものもあることが知られています。

根粒菌グループに属する細菌は、マメ科作物と共生関係を築き、大気中の窒素 (N2)を固定してマメ科作物や非マメ科作物が吸収しやすいアンモニア (NH4/NH3)に変換します。これを利用すれば、窒素肥料施用の必要性を削減できます。この窒素固定能は、イネなどの非マメ科作物でも見出されています。一方、リンは土壌要素と強固に結合して作物に利用できない状態になっていますが、特定のバクテリアや菌類を活用することでリンを可溶化することが期待されています(Sarr et al. 2020)。こうした特定の微生物は、作物の根の浸出液からの代謝産物によって活性化されて、有機酸、酸性またはアルカリ性リン酸モノエステル加水分解酵素(リン酸モノエステルまたはポリリン酸化合物を加水分解し、リン酸と水酸基を持つ化合物とに変換する脱リン酸化酵素)、シデロホア(鉄に対して高い親和性を持つ水溶性化合物群の1つ)、フィターゼ(植物中のフィチン酸からリンを放出させる酵素で、フィチン酸の分解を促進し、植物中のリンの利用性を高めることができる)、等の様々な物質を放出します。結果として、こうした微生物は、土壌中の無機態あるいは有機態リンを可溶化あるいは無機化することで、リンを作物に利用可能な形態で放出する能力を持ちます。作物による養分の吸収力は、さらに菌根と呼ばれる土壌菌類の力によって強化されます。こうした菌類は、より深い土壌深層にまで菌糸を伸ばしてリン、窒素、そして水を吸収し、作物の根の複雑なチャネルを介して植物へと運びます。

したがって、有用な微生物の活動を促進することによる土壌の生物学的特性が改善される農学的慣行は、作物生産性を強化すると同時に、化学肥料への依存を減らして、間接的に地球に優しい農業を促進することが期待されます。さらに、生物的硝化抑制 (Biological Nitrification Inhibition:BNI)作物と土壌硝化菌との関係を利用することで、亜酸化窒素の排出を削減することが可能です。 

ミニ講演では、土壌微生物のコミュニティと地球に優しい農業の関係について説明しています。是非、ビデオの方もご覧ください。

パパ サリオウ サール『微生物の力で地球に優しい農業を実現』 
https://www.youtube.com/watch?v=qzcKnFNPsH4 

(参考文献)
Rockstrom, J., Steffen, W., Noone, K., Person, A., Chapin, F.S., et al. (2009). Planetary boundaries: exploring the safe operating space for humanity. Ecology and Societies 14(2) doi:10.5751/ES-03180-140232 

Sarr PS, Tibiri EB, Fukuda M, Zongo AN, Compaore E, Nakamura S (2020) Phosphate-solubilizing fungi and alkaline phosphatase trigger the P solubilization during the co-composting of sorghum straw residues with Burkina Faso phosphate rock. Front Environ Sci 8:559195. doi: 10.3389/fenvs.2020.559195

United Nations (2019), Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2019). World Population Prospects 2019, Volume II: Demographic Profiles. 

World Food Program (2018), 2018-Hunger Map, https://www.wfp.org/publications/2018-hunger-map

(文責:生産環境・畜産領域 パパ サリオウ サール)