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405. 気温上昇抑制の1.5℃目標

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10月31日から、イギリス・グラスゴーにて、第26回気候変動枠組条約締約国会議(Conference of Parties: COP26)が開催されます。 この会議では、国際社会が産業革命以来の気温上昇を2℃以下、可能な限り1.5℃に抑えるために実行可能な温室効果ガス排出を純ゼロにする脱炭素化のコミットメントを表明することが求められています。

先日、気象物理学でノーベル賞を受賞された真鍋叔郎博士が、約50年前に示された気候モデルによって、大気中の二酸化炭素濃度が2倍になると地表面の気温が2℃上昇することを示唆していたということで、その先見性も話題となりました。 では、パリ協定、COP26でも話題にされる、平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃以下、出来る限り1.5℃以内に抑える意義は何でしょうか。

先日は、COPのおさらいをしましたが、 今回は、2018年に公表された「IPCC 1.5℃特別報告書」 の要点をまとめます。

人類の活動は、これまでに産業革命以来1.0℃(2021年8月のIPCC報告書では1.1℃に数値を更新)の地球温暖化をもたらしているとされます。このペースでは2030-2052年に1.5℃に達しかねません。1.5℃温暖化の世界では、現在よりも気候関連リスクは高まりますが、2℃温暖化の場合よりは低く抑えられます。リスクの程度は、温暖化の程度、地理的条件、開発の程度と脆弱性、また気候変動適応・緩和オプション実施に関する選択肢に依存します。

気候モデルの予測は、現在と1.5℃温暖化、1.5℃温暖化と2℃温暖化のケースで、地表・海洋の殆どの地域において、気温・降雨等の気候状況が相当程度異なることを示しています。ほとんどの居住地域が極端な熱波を経験し、ある地域では激しい降雨が、他の地域では干ばつ・降雨不足の可能性が高まることが予測されています。2100年までに、温暖化が2℃の場合と1.5℃の場合を比べ、後者では世界平均海面上昇が0.1m低いと予測されており、海面上昇の速度を遅らせることで島嶼諸国や低地海岸・デルタ地域に住む人類・生態系の適応策策定の時間稼ぎが可能となります。同様に、2℃にくらべ1.5℃の温暖化のもとでは、生物多様性喪失・絶滅の危機、海洋温度上昇・酸性化の程度、が緩和されます。健康・生活・食料安全保障・水供給・人間の安全保障・経済成長への気候関連リスクは1.5℃でも上昇しますが、2℃ではさらに高まります。2℃に比べ1.5℃での温暖化に対する適応策は安くすみます。

1.5℃を大きく超えないためには、人為的な二酸化炭素純排出を2010年比で2030年までに45%削減し、2050年までに純ゼロに達する必要があります。2℃に抑えるシナリオでは、2030年までに排出25%削減、2070年までに純ゼロに達する必要があります。1.5℃を大きく超えないためには、エネルギー・土地利用・都市・インフラ・産業における急激で広範なシステム移行が必要となります。このシステム移行はかつてない規模で実行されることになり、全てのセクターにおける緩和策への投資拡充を通じた排出削減の必要性を伴います。

2℃に対し1.5℃に温暖化を抑え、緩和策と適応策のシナジーを最大化し、トレードオフを最小化することで、持続可能な開発目標達成、貧困の撲滅、格差の解消の遂行に対する気候変動のインパクトを回避することができます。

温室効果ガス排出削減を目指す気候変動緩和策が、食料栄養安全保障と矛盾することは回避しなければなりません。農林水産業の分野では、各地域の事情に合わせ、生産性を確保しながら、温室効果ガス排出や環境負担も削減する方向を模索する必要があります。農林水産省の「みどりの食料システム戦略」は、気候変動対策と食料安全保障の両立を可能にするイノベーションの役割を強調しています。

参考文献
IPCC SPECIAL REPORT: GLOBAL WARMING OF 1.5 º Summary for Policymakers https://www.ipcc.ch/sr15/chapter/spm/

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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