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804. 世界が掲げる「ネットゼロ」目標

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804. 世界が掲げる「ネットゼロ」目標


人間活動による二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガス排出量から、炭素吸収量と除去量を差し引いて相殺することを意味する「ネットゼロ」概念。 

その達成は概ね2つの方法に分かれます。まず、人為的な温室効果ガス排出量を可能な限りゼロに近づけること。次に、排出量を完全にゼロにすることが困難な場合、その同等量の排出量を除去することです。


World Resource Instiituteは、下記10の取り組みを主要な温暖化対策として提案しています。

①    石炭火力発電からの脱退
②    クリーンエネルギー等への投資
③    建築の修繕や脱炭素化
④    セメント、鉄、プラスチック資材の製造過程におけるCO2排出削減
⑤    電気自動車への移行
⑥    公共交通機関の利用や自転車、徒歩移動の推進
⑦    船舶や航空事業の脱炭素化
⑧    森林破壊の阻止、土地劣化の回復
⑨    フードロス、食品廃棄の削減及び農業慣行の改善
⑩    植物性由来食品の消費促進、動物性由来食品の消費削減

 

「ネットゼロ」目標を明示的に設定し政策的に取り組んでいる国は過去2年間で大幅に増えており、6月20日発表のNature論説によると2020年12月には149か国のうち7%であったのが今や75%にのぼります。世界全体としてみれば、中国、アメリカ、インド、EU、ロシアや日本といった上位10か国・地域が世界の総排出の3分の2に責任があります。多くの国がネットゼロ目標の達成期限に定めた2050年までの30年弱の期間にアクションを起こす必要がありますが、公正という視点から、とりわけ排出量の多い国による排出をネットゼロにする努力が早急に求められています。

ネットゼロを達成するまでの時間軸は、CO2だけを対象とした場合と、メタンや亜酸化窒素等そのほか温室効果ガスも含めた場合と異なります。CO2に比べ、CO2以外の排出をネットゼロにするにはより困難と考えられる一方、短期的に気温を押し上げる可能性が高いとされており、すべての国がすべての温室効果ガス排出を含めた包括的なネットゼロ対策をとることが求められています。

例えば、農業は特に⑧~⑩の取り組みに直接かかわっていますが、同セクターはCO2に加え、家畜産業や水田稲作からのメタンガス排出、および、化学肥料の非効率な利用による亜酸化窒素の排出、とCO2以外の排出も大きな問題となっています。

同時に、農業は、増え続ける世界人口を養う重要な役割を負っています。とりわけ、途上国においては、人口増や都市化などで食の消費量の増加だけでなく、質的変化も予測されています。最近Nature Food誌で公表された論文によると、2000年から2019年の間、先進国における一人当たり動物性食品消費が下落傾向にある一方、開発途上国を中心に動物性食品の消費が急増することで、世界の食料サプライチェーンからの温室効果ガス排出が大幅に増えていることが報告されています。作物生産性が低迷している国々では、人口増にともない、森林破壊を伴う農地拡大も懸念されています。


ネットゼロの達成と「誰も取り残さない」世界を実現するには、未だに食料栄養安全保障に課題のある国々における農林畜産業の生産向上は必須であり、温室効果ガス排出削減と両立しうるイノベーションの推進・普及が早急に求められています。


(参考文献)
Li, Y., Zhong, H., Shan, Y. et al. Changes in global food consumption increase GHG emissions despite efficiency gains along global supply chains. Nat Food (2023). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00768-z


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)
 

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