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361. プロジェクト紹介:生態に基づく越境性害虫の環境調和型防除体系の構築
361. プロジェクト紹介:生態に基づく越境性害虫の環境調和型防除体系の構築
地球温暖化による越冬可能域の拡大や社会のグローバル化による移動分散の加速化により、越境性害虫の被害が拡大しています。2019年に日本が議長国となって開催されたG20首席農業研究者会議(G20MACS)においても、越境性植物病害虫が食料安全保障と環境に対する深刻な脅威となっていることが認識されました。これを受けて、2019年11月に農林水産省主催の「越境性植物病害虫の研究連携に関する国際ワークショップ」が開催されました。国際農研としても、有効な国際研究協力のあり方を探るため、同年11月にJIRCAS国際シンポジウム2019「植物の越境性病害虫に立ち向かう国際研究協力〜SDGs への貢献」を開催しました。
越境性害虫のまん延や拡散を防止するためには、先進国が率先して環境負荷が小さい管理技術の開発を進め、開発途上地域を含めた協力体制を構築する必要があります。そこで、「生態に基づく越境性害虫の環境調和型防除体系の構築【越境性害虫】プロジェクト】では、近年、特に問題が顕在化している越境性害虫に対して、生態に基づく効率的で環境負荷が小さい防除技術を開発します。加えて、新たな越境性害虫問題が顕在化した際に効率的に総合防除技術を開発するための指針となる、経済的評価モデルを提示します。
本プロジェクトは、サバクトビバッタ、イネウンカ類、ツマジロクサヨトウを研究対象とします。サバクトビバッタは、アフリカから南西アジアで大きな問題となっています。野外における生態に不明な点が多いため、群生相化し問題が顕在化した後に環境負荷が大きい非効率な防除を行わざるを得ない状況です。本種は多様な作物を加害することから、群生相が発生・侵入した地域では、作物生産および栄養補給に甚大な被害を受けます。サバクトビバッタについては、これまでに、東アフリカにおける気候変動と大発生の関係に関する議論を紹介したほか、国際農研に寄せられた質問に対する回答を掲載しています。イネウンカ類は、アジアにおける古くからの重要な越境性害虫です。日本への飛来源であるベトナムにおける防除体系が未確立であるため、現地と飛来先国の双方でコメの生産阻害要因となっているほか、殺虫剤抵抗性の発達などの問題が発生しています。ツマジロクサヨトウは、近年、アフリカおよびアジアに侵入しトウモロコシ類を中心に大きな被害をもたらしています。 成虫は、一晩で100kmを越える長距離移動能力を持つことが知られています。アジアでは、2018年にインドで発見されたのち、同年中にタイ等の東南アジアに侵入しました。また、翌年には、日本でも発見されるに至りました。本種については、アジアにおける発生生態と栽培体系に応じた防除体系が未確立であるため、各地で大きな減収要因となっています。また、殺虫剤に過度に依存した防除による殺虫剤抵抗性の発達が懸念されています。
研究の流れは以下(図)の通りです。ツマジロクサヨトウについては、これまでに、世界経済フォーラムのプラットホームのひとつであるGrow Asiaを通して、東南アジア諸国連合(ASEAN)における本種の防除に関する行動計画立案に寄与しました。今後も、国際機関への協力や、研究対象国以外の国や地域への情報発信を継続することで、波及効果の最大化を目指します。
(参考文献等)
JIRCASの動き2019. 越境性植物病害虫の研究連携に関する国際ワークショップへの参加
https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2019/r20191129_0
JIRCASの動き2019. JIRCAS国際シンポジウム2019「植物の越境性病害虫に立ち向かう国際研究協力〜SDGs への貢献」を開催
https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2019/r20191128_0
B3 生態に基づく越境性害虫の環境調和型防除体系の構築【越境性害虫】
https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b3
Pick Up 2. サバクトビバッタの予防的防除技術の開発に向けて
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200308_0
Pick Up 96. Nature Climate Change: 東アフリカにおける気候変動とバッタ大発生
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200728
サバクトビバッタについて
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/desert-locust
Pick Up 156. 稲作の収量減の元凶、ウンカの発生を食い止めたい
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20201020
Pick Up 30. 越境性病害虫と国際植物防疫年 - ツマジロクサヨトウ(fall armyworm)
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200508
ASEANにおけるツマジロクサヨトウ対策行動計画(Grow Asiaのサイトへのリンク)
http://exchange.growasia.org/asean-action-plan-fall-armyworm-control
(文責:生産環境・畜産領域 小堀陽一)