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312. 持続的なフードシステム構築に向けた教訓

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2021年5月、Nature Food誌にて、国連フードシステムサミット特使であるAgnes Kalibata氏が、持続的なフードシステム構築のために、科学技術・知識を最大限活用することの重要性について、論考を寄せました。以下、概要を紹介します。

ルワンダ出身のKalibata博士が2008年に農業大臣に就任した際、ルワンダは飢餓と農村貧困という二つの課題に直面していました。博士にとり、当時そして現在も通じる教訓は、農業プログラムを実践する際に、専門家の知識と技術を最大限活用するアプローチの有効性でした。博士は、国際農業研究機関ネットワークであるCGIARにおいてキャリアを積んできた経験も活かし、科学・科学者のネットワークを 通じ、エビデンスをもとに政策を実行することの重要性を強調しました。


特使は、ルワンダ政府の成功のカギとして、二つの視点を強調します。一つ目は、ローカル・コンテクストに基づいた解決法を探ることです。二点目は、全ての関係省庁が総力を挙げて協力することです。当時ルワンダは、1994年のジェノサイドから10数年経った状況で、脆弱な環境の下で農業生産性を向上するという複雑な食料栄養安全保障上の課題を抱えていました。この際、科学に基づいた意思決定を行うことで、政策形成のコンセンサスを迅速に形成することが可能となりました。結果として、国民の5分の1に相当する200万人のルワンダ人が、5年間のうちに貧困から脱することができ、国として食料安全保障を改善し悲惨な過去から回復することができました。


今日、フードシステムは、増え続ける世界人口に対し十分な食料を供給すると同時に、環境負荷を削減し、2030年までのSDGsアジェンダ達成を実現しなければなりません。世界が全ての化石燃料使用を今すぐ放棄したとしても、フードシステム由来の温室効果ガス排出だけで、2051-2063年には世界の気温上昇を産業革命期比で1.5℃上昇させてしまう可能性は高いとされています。


COVID-19パンデミックに際しても、科学を重要視するアプローチの有効性が示されています。持続的なフードシステムへの転換を促すことを目的とした科学に基づく政策は、新製品や新技術の発明以上のことを意味し、政策策定者に革新的な発想法を授けるものです。


今年予定されている国連食料システム・サミットでは、人類と地球のニーズに対する包括的な視点を提供することで、食料栄養安全保障の向上、持続性の改善、貧困削減、気候変動の解決、レジリエンスの構築、に向けた解決法に対する議論を行います。


参考文献
Kalibata, A. Transforming food systems is within reach. Nat Food 2, 313–314 (2021). https://www.nature.com/articles/s43016-021-00291-z

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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