研究成果情報 - 日本
国際農林水産業研究センターにおける研究成果のうち、成果が特に顕著で、広く利用を図ることが望ましいと考えられる成果を要約してご紹介しています。
- 稲わらから効率的に高濃度糖液をつくる微生物糖化法(2025)稲わら糖化の実装には、糖化反応を維持し高濃度糖液を得る糖化法が必要である。Tween 20 (界面活性剤) 添加は、酵素の非生産的吸着および酵素活性低下を抑え、高固形分条件での糖化安定化に寄与する。また、Tween 20の添加と、稲わらを段階的に追加投入する半連続運転を組み合わせることで、高固形分条件でも外部酵素添加に依存せずに糖化を維持できる。本手法では、稲わら総投入量250 g L-1に対しグルコース140 g L-1 (理論収率の70.1%) が得られる。本成果は、高負荷糖化の条件設定とスケール検討の指針となる。
- 生産者と消費者双方の取り組みによる窒素負荷削減効果の見える化(2025)沖縄県石垣島に食の窒素フットプリントを適用することにより、生産者と消費者の双方の行動が食料システムに起因する島内外の窒素バランス改善に与える影響を評価できる。その前提条件として牛糞堆肥の農地還元促進を生産者の行動とし、植物性たんぱく質中心の食生活や食品ロス削減とその家畜飼料への再利用を消費者の行動と位置付ける。生産者の取り組みでは、島内の化学肥料および窒素負荷量をそれぞれ20%および13%削減できる。消費者の取り組みでは、島外地域での窒素投入および負荷量をそれぞれ19%および31%削減できる。
- 黄麹・白麹を用いた麹甘酒化による玄米フィチン酸の脱リン酸化・イノシトール生成促進(2025)玄米は微量栄養素に富む一方、糠層に多いフィチン酸(イノシトール6リン酸)がミネラルと結合し利用性を低下させ得る。本成果は、玄米を麹甘酒化することでフィチン酸を段階的に脱リン酸化し、イノシトール生成を促進できる加工条件を示す。黄麹菌由来米麹単独に比べ、白麹菌由来米麹を配合するとフィチン酸分解とイノシトール生成が有意に高まり、併せて白麹菌由来クエン酸による酸性化により、風味設計や保存性向上への応用も期待される。本成果は、玄米の栄養価改善を目的とした発酵加工設計に資する基礎知見を提供する。
- 紅藻カギケノリの世代交代を利用した配偶体種苗の生産技術(2025)紅藻カギケノリは、反すう家畜由来のメタンガス削減に資する海藻として注目されているが、その養殖生産の実用化に向けては安定的な種苗供給技術の確立が課題となっている。本研究では、カギケノリの世代交代に着目し、水温(25℃)および明暗周期(明期8 h: 暗期16 h)による胞子体の成熟および胞子放出の誘導効果、発芽により得られた配偶体の通気培養による成長促進効果を明らかにする。配偶体は低コストな海面養殖に適した世代であることから、本研究成果はカギケノリ養殖の生産性向上に寄与する。
- ICP全波長スペクトルの深層学習による多項目同時測定可能な土壌診断法(2025)現在の土壌診断は費用が高く、特に開発途上地域では土壌診断に基づく技術適用が困難な状況である。これを解決するため、これまでに国際農研が取得したアフリカ・アジアを中心とした約2,000試料の土壌分析結果と、ICP(誘導結合型プラズマ発光分光分析装置)で得られる全波長スペクトルを深層学習し、土壌診断結果の精度を検証する。本法では1つの抽出液で主要な12の土壌診断項目を高精度に評価でき、分析に要する機器や試薬、分析時間を大幅に削減できるため、迅速かつ安価な土壌診断が可能となる。
- 小型で安価なマイコンとCO2センサーを用いた簡易光合成測定装置(2025)光合成は植物の生育の最も基本的なプロセスであり、個葉の光合成速度は植物科学の多くの場面で活用される生育指標である。一方で、一般に用いられる光合成測定装置は、高精度な測定システムを備えるため、大型で高価となり、導入のハードルが高い。開発した光合成測定装置は、マイクロコンピューター(マイコン)で制御する二酸化炭素(CO2)センサー系と、アクリル製の同化箱(葉を封入する箱)から構成される。小型かつ安価で自作可能な本測定装置は、CO2吸収量に基づく光合成速度の測定において、市販標準機と同等の精度を示す。
- サトウキビとエリアンサスの属間雑種はサトウキビより葉の水利用効率が優れる(2025)サトウキビ近縁属エリアンサスは、耐乾性指標である葉身の水利用効率(光合成速度÷気孔コンダクタンス)が土壌水分条件にかかわらずサトウキビより高い。また、エリアンサスはサトウキビに比べ葉の裏面の気孔密度が低い。サトウキビとエリアンサスの属間雑種F1系統J16-77の葉身特性はエリアンサスに類似し、サトウキビより水利用効率が高く、葉の裏面の気孔密度も低い。一方、乾物分配についてはサトウキビに類似し、茎への分配が多い。今後、戻し交配により糖度を改良することで、高糖度と耐乾性を併せ持つ品種の育成が期待される。
- 日本在来サトウキビ野生種の遺伝的特異性と遺伝資源としての価値(2025)日本のサトウキビ野生種遺伝資源は、北東アジア型に分類され、インドやタイなどの大陸アジア型やインドネシアなどの島嶼アジア型と遺伝的に異なる。世界のサトウキビ製糖品種の遺伝的背景には、大陸アジア型や島嶼アジア型野生種のゲノムは含まれているが、北東アジア型のゲノムはほとんど含まれておらず、わずかに日本および中国の品種で確認されるのみである。そのため、幅広い遺伝的多様性の利用が求められているサトウキビ育種において、日本のサトウキビ野生種や製糖品種は世界的に重要な遺伝資源となる。
- 倍数性操作によるアジアイネ×アフリカイネ稔性雑種の新たな作出手法(2025)アフリカイネはアジアイネとは異なる独自の病害抵抗性やストレス耐性をもつが、両種間のF1雑種は花粉不稔となるため、種子が得られず、育種利用は限定的である。アジアイネとアフリカイネをそれぞれ4倍体化して交雑すると、得られる4倍体F1雑種は部分的に花粉機能をもつ。4倍体の花粉を培養して2倍体に戻し、さらにその花粉を培養して得られる倍加半数体は、通常のイネ品種と同程度の花粉稔性を示し、両種の遺伝子を均等に受け継ぐ。本手法を用いることで、両種の優れた形質を併せもつ品種を育成できる可能性が広がる。
- 熱帯の低pH農地土壌の理化学性と生物性はフィルターケーキ施用により改善される(2024)
石垣島のサトウキビ畑に製糖副産物であるフィルターケーキ(FC)を施用すると、低pH土壌では物理性および化学性が向上する。また、FC施用により、低pH土壌では大型土壌動物であるミミズの現存量も増加するが、中pH土壌では減少する。低pH土壌でのFC施用は、理化学性の改善に加えて、有機物分解の促進や土壌構造の改変を担うミミズの現存量を増加させるため、物質循環や保水性などの土壌機能の向上も期待できる。
- 作物栽培条件下の窒素溶脱量抑制には炭化物の表層土壌への施用が有効(2024)
土壌への炭化物の施用深度の違いにより施肥由来の硝酸態窒素溶脱量は変化する。作物栽培条件下では表層施用により溶脱量が12.3%減少する一方、作土層施用では6.4%増加する。本試験の条件において表層施用では、無施用と比較して深さ0~30 cmの土壌における窒素吸着量増加と乾燥状態の軽減が見られる。炭化物を適切な深度に施用することで、環境負荷軽減が期待される。
- 地中パイプの配置・構造の変更によりビニルトンネル内の水蒸気を効率的に回収できる(2024)
地中に埋設したパイプおよびビニルフィルムの内外の温度差を利用し、塩水などの蒸発により生じた水蒸気を結露させて淡水を生産できる。この地中パイプをビニルハウスの直下から外へ移動し、さらに直径100 mmのパイプ1本から直径50 mmのパイプ4本に変更することによりパイプ壁温が低くなり、水蒸気の回収率が約3割増加する。
- アンデス高地で栽培化された高地型キヌア系統の高精度ゲノム配列情報(2024)
栽培起源地とされるティティカカ湖周辺に生育する北部高地型およびボリビアのウユニ塩湖周辺の過酷環境に適応した南部高地型のキヌア自殖系統の高精度ゲノム配列情報は、キヌアの栽培化の謎を解き明かすだけでなく、その優れた環境適応性や栄養特性を解明するための重要なゲノム解析基盤として活用できる。
- イネの穂数を増加させる遺伝子MP3は飼料用米品種「北陸193号」を増収させる(2024)
「コシヒカリ」由来の遺伝子MP3を国内最多収記録を有する飼料用米品種「北陸193号」に交配により導入した新系統「北陸193号-MP3」は、窒素施肥の有無にかかわらず、「北陸193号」と比較して穂数が21~28%増加し、6~8%増収する。新系統の利用により、肥料価格や飼料価格の高騰下における農家の安定生産へ貢献が期待される。
- 土–石膏混合クラストで種子の出芽能力を簡易に評価(2024)
石膏と土の混合資材を用いることで、土壌クラストを任意の硬度で均一に再現することができる。この手法をダイズ遺伝資源集団に用いることで、クラスト生成条件下において出芽能力が優れる系統・品種を簡便、迅速かつ低コストに選抜することができる。この手法はダイズ以外にも幅広く応用できるため、様々な作物遺伝資源においてクラスト条件下での出芽能力に優れる系統選抜が進むと期待される。
- ゴカイ生餌の給餌によるバナメイエビ成熟制御技術の開発(2024)
バナメイエビ養殖の持続性および収益性維持には、高品質な種苗の安定供給を可能とする技術が必要となる。人工配合餌料に加えゴカイの生餌を併せて給餌することにより、親エビの卵成熟誘導を促進し、産卵回数・産卵数を向上させ、成熟効果を長く維持できる。従来の眼柄切除法に代わる新たな卵成熟誘導技術としてこの給餌法を採用することで、エビ養殖において最も手間と時間を要していた種苗生産の効率化が期待できる。
- エリアンサスの高い水利用効率と関連する葉身代謝物の蓄積(2024)
サトウキビの近縁属遺伝資源エリアンサスは、耐乾性指標である葉身の水利用効率(光合成速度÷気孔コンダクタンス)が、土壌の乾燥湿潤にかかわらずサトウキビに比べ高い。また、エリアンサスはサトウキビに比べ葉の裏面の気孔密度が低く、葉にベタインやγ-アミノ酪酸(GABA)といった気孔閉鎖およびストレス応答に機能する物質を豊富に蓄積する。これらの特性は、属間雑種集団などを用いた耐乾性系統選抜のためのバイオマーカーとしての利用が期待される。
- 酸素ナノバブル⽔による湛⽔⽔⽥⼟壌の⾼酸素化とメタン⽣成抑制(2019)
ナノバブルとは直径1 µm以下の微小気泡で、水中に長期間存在できる。純酸素を材料ガスとするナノバブルを高密度に含む水を作成し、湛水状態の土壌カラムに上部から通水すると、土壌表面付近の浅層中の酸素濃度が上昇するとともに、メタン生成が抑えられる。
- ソルガムの⽣物的硝化抑制にはアンモニア酸化古細菌の抑制が関連する(2019)
ソルガムが根から分泌する難水溶性の硝化抑制物質であるソルゴレオンは、生育とともに下層土に向かって新生される根から分泌され、分泌量には系統間差がある。ソルゴレオンの分泌量が多い系統の根圏土壌では、硝化活性とアンモニア酸化古細菌数がともに低下することから、ソルガムの生物的硝化抑制にはアンモニア酸化古細菌数の抑制が関連している。
- RNA⼲渉法によるバナメイエビ卵⻩形成抑制ホルモン遺伝⼦の発現抑制(2019)
バナメイエビにおける卵黄形成抑制ホルモンの遺伝子構造を明らかにし、定量PCR法を構築することにより、体内の遺伝子発現量の変動を把握できる。また、遺伝子情報を基にRNA干渉法を用いることで卵黄形成抑制ホルモンの遺伝子発現を抑制できる。