ICP全波長スペクトルの深層学習による多項目同時測定可能な土壌診断法
背景・ねらい
世界的な食料需要の増大と気候変動の進行により、限られた資源のもとで生産性と環境保全を両立させる持続可能な農業の実現が強く求められている。とりわけ農耕地の健全性の維持・向上には、土壌状態を把握し、それに基づいた施肥・管理を行うことが不可欠である。しかし農業の現場、特に開発途上地域では、高価で時間を要する従来の土壌分析を十分に実施できないことが多く、低コストで利用可能な土壌診断技術へのニーズが極めて高い。これに対する代替技術として、近赤外・中赤外分光などの光学センサーを用いた非破壊型の土壌診断法が研究されているが、同時に評価可能な成分が限られるなど、実用上の制約が残されている。
そこで本研究では、ICP(誘導結合型プラズマ発光分光分析装置)の全波長スペクトルを深層学習によって解析することにより、多項目を同時に推定可能な、迅速かつ低コストの新規土壌診断技術を開発する。
成果の内容・特徴
- アフリカ・アジアを中心とする7か国から得られた1,941試料を従来の分析法で分析し、その結果を深層学習の教師データとする。
- 分析項目はpH (H2O、KCl)、電気伝導度 (EC)、有効態P含量 (Bray-1)、交換性Ca、Mg、K、Na含量、交換性Al含量、陽イオン交換容量 (CEC)、全炭素含量、全窒素含量、粒径組成(粘土含量、砂含量)の計12項目である。
- ICPでは、取得される全波長データから通常目的の元素に応じた波長のみが選択され、その指定波長に対する標準試料の発光強度から検量線を作成し、目的元素の濃度を定量する。本研究では、pH7の1 M酢酸アンモニウムによる土壌抽出液について、全波長データから234波長を代表する2,574ピクセルの強度値を取得し、自然対数化した後、深層学習に供試する。
- 得られた土壌分析値およびICP波長データをランダムに80%を学習用データ、20%を評価用データとし、順伝搬型ニューラルネットワーク (FFNN) による学習を実施する。また、得られた予測精度について、土壌診断における利用可能性を、MalleyおよびChangの指標で評価する。
- 本法では対象とした12項目を高精度で予測できる。多くは決定係数が0.9を超え、最も予測精度の低い全炭素でも0.812である。一般的にICPでは測定できないpHやCEC等も高い精度で予測され(図1)、12項目全てにおいて、土壌診断に利用できる精度で予測できる(表1)。
成果の活用面・留意点
- 本法で土壌診断を実施する場合、必要な機器は主にICPのみであり、試薬は酢酸アンモニウムのみである(図2)。
- 本法は簡易法であることから、より高い測定精度が必要な場合には、従来法を用いる必要がある。また、保⽔性などの物理性項目の予測には適用できない可能性がある。
- 本法の教師データはアフリカ・アジアを中心とする7か国から得られたものであり、それらと類似した土壌条件を有する国では本法を適用できるものの、それ以外の国で適用する際には、対象とする地域で別途予測モデルを構築する必要がある。
- 本研究では研究資材の制限により、データ量を制限した予測を実施した。より多くの学習データを用い、畳み込みニューラルネットワーク (CNN: convolutional neural network) などの手法を利用することで、さらに精度を高められる可能性がある。
具体的データ
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ畑作システム
- 研究期間
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2021~2025年度
- 研究担当者
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中村 智史 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-0952-5618科研費研究者番号: 00749921伊ヶ崎 健大 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-5460-8570科研費研究者番号: 70582021今矢 明宏 ( 森林総合研究所 )
ORCID ID0009-0003-5727-2154科研費研究者番号: 60353596 - ほか
- 発表論文等
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Nakamura et al. (2025) Scientific Reports 15: 37753https://doi.org/10.1038/s41598-025-24274-3特許情報 : 特許第7464284号
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。