エリアンサスの高い水利用効率と関連する葉身代謝物の蓄積

関連プロジェクト
熱帯作物資源
国名
日本
要約

サトウキビの近縁属遺伝資源エリアンサスは、耐乾性指標である葉身の水利用効率(光合成速度÷気孔コンダクタンス)が、土壌の乾燥湿潤にかかわらずサトウキビに比べ高い。また、エリアンサスはサトウキビに比べ葉の裏面の気孔密度が低く、葉にベタインやγ-アミノ酪酸(GABA)といった気孔閉鎖およびストレス応答に機能する物質を豊富に蓄積する。これらの特性は、属間雑種集団などを用いた耐乾性系統選抜のためのバイオマーカーとしての利用が期待される。

背景・ねらい

 サトウキビ(Saccharum spp.)の近縁属遺伝資源エリアンサス(Erianthus arundinaceus)は、属間交配によるサトウキビの耐乾性改良に資するとされる。一方、サトウキビとの比較を通した本種の耐乾性の生理学的な成立要因についての検証が不十分であり、選抜指標としての有望形質の探索や耐乾性育種の効率化が進展していない。本種の耐乾性関連形質として、これまでに報告のある根系だけでなく、葉身など地上部特性にも着目した研究が必要である。葉のガス交換特性のうち、光合成速度を蒸散指標の気孔コンダクタンスで除した水利用効率は有用耐乾性指標の一つと考えられる。ここでは、水利用効率に加え、関連する気孔形態や代謝物に着目する。
 国際農研 熱帯・島嶼研究拠点のガラス温室において、ポット条件で乾燥区、湿潤区を設け、サトウキビ品種NiF8とエリアンサス系統JW630の葉身ガス交換特性および植物体各部位の一次代謝物の応答(網羅的解析=メタボロミクス)、気孔形態を調査し、耐乾性に関連する地上部の有用形質を探索する(図1)。

成果の内容・特徴

  1. 植物体各部位のメタボロミクスにより、188種の代謝物濃度を測定し、多変量解析(主成分分析、階層型クラスター解析)を実施したところ、代謝物組成に関し部位間の連動があること、特に葉で種間差や土壌水分の影響が明瞭に認められる。
  2. 土壌水分条件にかかわらずエリアンサスは葉身ガス交換特性から算出される水利用効率(光合成速度÷気孔コンダクタンス)がサトウキビに比べて高い(図2a)。
  3. エリアンサスは、葉の裏面の気孔がサトウキビに比べて少ない(図2b)。
  4. エリアンサスは、ベタインやγ-アミノ酪酸(GABA)など、気孔閉鎖やストレス応答に関与する代謝物を葉に豊富に蓄積する(図3)。

成果の活用面・留意点

  1. エリアンサスの葉面の気孔密度の低さは蒸散による水分損失を抑制している可能性があり、高い水利用効率との関連が示唆される。
  2. エリアンサスの耐乾性に関し、既知の深根性等の根系拡充能力に加え、地上部の葉の特性(気孔密度、代謝物)が有用な評価指標となり得る。一方、エリアンサスの高い水利用効率(図2a)と、葉の裏面の気孔密度(図2b)および葉に蓄積する代謝物(図3)との因果関係については更なる調査が必要である。
  3. エリアンサスは遺伝的に異なる系統群の存在が知られている。本研究と異なる生理反応を示す系統が存在する可能性があり、遺伝資源集団の形質の多様性について着目した研究を実施中である。
  4. 今後、これら形質(気孔密度、葉身代謝物)をバイオマーカーとして用いた耐乾性の簡易選抜が可能か、雑種集団などを用いて検証することで、耐乾性関連の遺伝マーカー開発による耐乾性育種の効率化が期待できる。

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

情報

予算区分

交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 熱帯作物資源

交付金 » 第5期 » 理事長インセンティブ

研究期間

2021~2022年度

研究担当者

寳川 拓生 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 70851260

若山 正隆 ( 愛媛大学 )

科研費研究者番号: 20721913

ほか
発表論文等

Takaragawa & Wakayama (2024) Planta 260:90.
https://doi.org/10.1007/s00425-024-04508-w

日本語PDF

2024_C05_ja.pdf1.5 MB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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