サトウキビとエリアンサスの属間雑種はサトウキビより窒素利用効率が優れる

関連プロジェクト
熱帯島嶼環境保全
要約

サトウキビと根が深く発達する近縁属植物エリアンサスとの属間交配を利用して作出した属間雑種F1は、サトウキビより全乾物重や土壌深層の根量が多い。また、サトウキビより全窒素吸収量や窒素利用効率が高く、窒素溶脱量が少ない。この属間雑種を品種開発に利用することで、環境負荷を低減するサトウキビ品種の作出が期待できる。

背景・ねらい

熱帯・亜熱帯の島嶼・沿岸地域では、農地と自然環境や人間生活の場との距離が近接しており、肥料を起源とする農地からの栄養塩類の流亡による富栄養化が問題となっている。サトウキビ(Saccharum spp.)は、それら地域の主要な作物の一つとして栽培されているが、農地からの硝酸態窒素の溶脱が問題となっており、本作物の窒素利用効率を向上させ、窒素溶脱量を低減させることが環境保全に必要である。本作物の窒素利用に関し、施肥方法等の営農的対策に関する研究が進められてきたが、育種的試みは少ない。サトウキビの近縁属植物エリアンサス(Erianthus arundinaceus)は、サトウキビより根系発達が旺盛で、硝酸態窒素を好んで吸収する特性がある。したがって、エリアンサスとの属間交配を通して作出されるサトウキビは根系が改良され、窒素利用特性が改善される可能性がある。
本研究では、地下からの浸透水を観測できる沖縄県石垣市の熱帯・島嶼研究拠点のライシメーターを用いて、サトウキビとエリアンサスの属間雑種F1系統および親系統を夏植え栽培し(図1)、窒素施肥後の硝酸態窒素溶脱および作物体の窒素吸収量、根の分布を調査し、属間交配による窒素利用効率の改良可能性を明らかにする。

 

成果の内容・特徴

  1. 属間雑種F1およびエリアンサスはサトウキビに比べ、土壌深層部の根量が多い(図2)。
  2. 浸透水の硝酸態窒素濃度は各施肥日から2か月程でピークが出現する。特に、2回目の施肥後の硝酸態窒素濃度はエリアンサスおよび属間雑種F1に比べ、サトウキビでのみ顕著である(図3)。
  3. 生育期間で積算した窒素溶脱量は、サトウキビで最も高く、属間雑種F1P = 0.056;対サトウキビ)やエリアンサス(P<0.001;対サトウキビ)で低い(表1)。
  4. 属間雑種F1およびエリアンサスはサトウキビに比べ全乾物重が有意に高い(表1)。また、地上部重/根重比が低く、根へ多くの乾物を分配する。さらに、深根性指標である根の深さ指数が高い。
  5. 全窒素吸収量は、サトウキビに比べ、エリアンサスで高い傾向であり(P = 0.111)、属間雑種F1では有意に高い(P<0.05)(表1)。
  6. 全乾物重を全窒素吸収量で除した窒素利用効率は、サトウキビに比べ属間雑種F1およびエリアンサスで有意に高い(P<0.01;対サトウキビ)(表1)。

 

成果の活用面・留意点

  1. サトウキビとエリアンサスとの属間雑種F1は、窒素溶脱低減に資するサトウキビ品種育成に利用できる。
  2. サトウキビとエリアンサスとの属間雑種F1は、窒素利用効率が高いため、窒素肥料削減に資するサトウキビ品種育成に利用できる可能性がある。これは「みどりの食料システム戦略」の化学肥料の使用量削減に貢献する。
  3. 供試した属間雑種F1は収穫期の糖度が低いため、製糖用品種として活用するためには、サトウキビ品種との戻し交配を通した糖含率の改良が必要である。
  4. 属間雑種F1の高い窒素利用効率は、サトウキビ親と比較して根系が良く発達することを要因とする可能性がある。他方、硝酸態窒素の吸収特性も窒素利用効率に関係する可能性があることから、今後重窒素トレーサー法を用いた施用試験により検討していく必要がある。

 

具体的データ

  1.  

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金

研究期間

2020~2021年度

研究担当者

寳川 拓生 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

岡本 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

寺島 義文 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 90414846
見える化ID: 001787

安西 俊彦 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

ほか
発表論文等

Takaragawa et al. (2022) Plant Production Science, 25, 298–310.
https://doi.org/10.1080/1343943X.2022.2097098

日本語PDF

2022_A09_ja.pdf1.01 MB

English PDF

2022_A09_en.pdf791.64 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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