サトウキビにおける植物内生菌による窒素固定
タイで栽培されているサトウキビは、植物体中全窒素の約2~3割の窒素を窒素固定によって獲得することができる。
背景・ねらい
東北タイの砂質土壌地帯では、サトウキビ生産の拡大に伴って大型農業機械の導入が進み、作物の浅根化や土壌流亡の激化等を招く硬盤層の存在が問題化している。また、サトウキビ作においては多くの作業機を用いる現栽培体系の改善による低コスト化が求められている。そこで、硬盤層の破壊、透水性の改善・表土流出抑制効果、作物根域の拡大等を通して畑作物の収量性改善や耐乾性の増大等の効果を有するサブソイル耕とサトウキビの施肥・植付作業とを結合させ、サトウキビ作における耕起・植付け作業体系の改善を図る。
成果の内容・特徴
- 試験圃場で栽培したサトウキビ(3 ~ 4 品種)はいずれも窒素固定によって空気中の窒素を獲得しており、その割合は植物体中全窒素の15 ~ 40%であり、平均では約30%に相当する(図1)。
- 一方、農家圃場で栽培されているサトウキビでは、調査した54 個体のうち3 分の1 の個体でしか窒素固定が認められない。窒素固定が行われている個体では、試験圃場の結果と同様に、約3 割の窒素が窒素固定によって獲得されている(表1)。
- 砂耕ポット試験では、サトウキビの窒素のアウトプット量が化学肥料や雨からのインプット量より大きくなった。その差はサトウキビの植物体中全窒素の約21%に相当し、この分が窒素固定によるものであることを示している(図2)。
- 以上の結果から、タイのサトウキビは植物体中全窒素の2 ~ 3 割を窒素固定によって獲得するポテンシャルがあることが推察される。
成果の活用面・留意点
- 現地のサトウキビ栽培は機械化集約栽培が進められ、資源管理、土壌肥沃度管理の観点から見直しが求められている現状であり、今回明らかにされた窒素固定能の活用により、サトウキビそれ自身が有する能力をより活用し、窒素肥料投入量を削減し、環境負荷を低減した持続的栽培法の提案に繋がる。
- 農家圃場でもサトウキビの窒素固定能を高く発揮させるための水管理並びに肥培管理に関する検討が必要である。
具体的データ
- Affiliation
-
国際農研 生産環境部
-
タイ農業局
農研機構 中央農業総合研究センター
- 分類
-
研究
- 予算区分
- 国際プロ〔東北タイ〕 パイオニア特研〔植物体内細菌〕
- 研究課題
-
タイ東北部における生物的窒素固定を活用した持続的農業技術の開発
- 研究期間
-
2001 年度(1997 ~ 2001 年度)
- 研究担当者
-
安藤 象太郎 ( 生産環境部 )
松本 成夫 ( 生産環境部 )
MEUNCHANG Sompong ( タイ農業局 )
PRASERSAK Praphan ( タイ農業局 )
THIPPAYARUGS Srisuda ( タイ農業局 )
大脇 良成 ( 農研機構 中央農業総合研究センター )
- ほか
- 発表論文等
-
Ando, S., Meunchang, S., Prasertsak, P., Thippayarugs, S., Matsumoto, N. and Yoneyama, T. (2001): Natural 15N abundance of sugarcane, cassava and pineapple in Thailand: possible input of nitrogen by N2 fixation in sugarcane and pineapple. Proceedings of the 6th Symposium of the International Society of Root Research, Nagoya, Japan, p.108-109.
- 日本語PDF
-
2001_08_A3_ja.pdf497.32 KB
- English PDF
-
2001_07_A4_en.pdf87.24 KB