サトウキビとエリアンサスの属間交配によりサトウキビ根系特性の改良が可能である
エリアンサスは、乾燥ストレス耐性と関連する深根性やリグニンの根への沈着が多い特性を具えるサトウキビの近縁属遺伝資源である。サトウキビとエリアンサスの属間雑種F1は、サトウキビより土壌深層の根長密度が大きく、根のリグニン含量が多いことから、エリアンサスをサトウキビの育種に利用することで、サトウキビの乾燥ストレス耐性に関連する根系特性の改良が可能である。
背景・ねらい
気候変動下での作物の生産性向上や持続的生産に向けて、干ばつ等の乾燥ストレスに強い作物の開発が求められており、土中から養水分を吸収する根の改良は、そのための重要な課題である。世界の食料・エネルギー生産にとって重要な作物であるサトウキビ(Sacchrum spp hybrid)においても、干ばつ被害等の増加が懸念されており、根系特性の改良による乾燥ストレス耐性の大幅な向上が求められている。しかし、サトウキビの根系改良に関する報告は少なく、既存の育種素材を利用した育種改良の限界も指摘されている。サトウキビの近縁属遺伝資源であるエリアンサス(Erianthus arundinaceus)は、根が大きく、深く発達するため、干ばつへの適応性に優れる。また、植物細胞壁を構成する主要成分の一つであり、乾燥ストレス耐性とも関連するリグニン(高分子のフェノール性化合物)の沈着が根で多いことから、サトウキビの根系改良のための新たな遺伝資源として期待できる。国際農研では、エリアンサスの育種利用に向けて、サトウキビとエリアンサスの属間雑種F1集団を作出し、その農業特性や細胞遺伝学的特性を明らかにした(平成30年度国際農林水産業研究成果情報B06「サトウキビの新しい育種素材となるサトウキビとエリアンサスの属間雑種の作出」)。一方、サトウキビの根系改良に向けたエリアンサス利用の可能性については明らかにされてこなかった。本研究では、属間雑種F1系統の根系特性を評価し、乾燥ストレス耐性の改良が期待できる深根性やリグニン含量等に関するエリアンサスの根系特性が、サトウキビに導入できるかについて明らかにする。
成果の内容・特徴
- 本研究では、これまでに作出した属間雑種F1集団から、最もバイオマス生産性が高い系統「J08-12」を選定し、根系特性を評価した。本研究での試験においても「J08-12」は、母本としたサトウキビ「NiF8」より茎数が多く、同程度以上の地上部乾物重となる(表1)。
- エリアンサスは「NiF8」より株あたり根乾物重が大きく、地上部重/根重比は小さい。「J08-12」は、エリアンサスと同様に、「NiF8」と比較して株あたり根乾物重は同程度以上で、地上部重/根重比は小さいため、エリアンサスと同様に根に多くの乾物を分配する(表1、図1)。
- 「J08-12」は、地表面から60cm以深の土壌深層の根長密度が「NiF8」より大きく、エリアンサスと同様に根が深く発達する(表2、図1)。
- 根のリグニン含量は、「NiF8」で少なく、エリアンサスで多い。「J08-12」は、エリアンサスと同様に、根のリグニン含量が「NiF8」より多い(表1)。
- 以上のことから、サトウキビとエリアンサスの属間交配により、エリアンサスの根系特性がサトウキビに導入可能であり、エリアンサスは、サトウキビの乾燥ストレス耐性の向上に向けた根系改良に有用な新たな遺伝資源となり得る。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、サトウキビとエリアンサスの属間交配により、サトウキビの乾燥ストレス耐性に関連する根系特性を改良できることを示す世界初の報告である。エリアンサスをサトウキビ改良へ利用する際の基礎情報として、また、他の作物における近縁属遺伝資源を利用した根系改良の可能性を示す基礎情報として利用できる。
- 本研究で選定・評価した属間雑種「J08-12」は、サトウキビの乾燥ストレス耐性と関連する根系特性の改良に向けた新しい育種素材として活用できる。
- 根系改良が乾燥ストレス耐性等へ与える具体的な影響については、今後の評価が必要である。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 熱帯作物資源
交付金 » 高バイオマス資源作物
交付金 » 熱帯作物開発
受託 » 沖縄県・糖業の高度化事業
科研費
- 科研費
- 研究期間
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2011~2023年度
- 研究担当者
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寺島 義文 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
杉本 明 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
科研費研究者番号: 30414840高木 洋子 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
安藤 象太郎 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
山中 愼介 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
見える化ID: 001785TIPPAYAWAT Amarawan ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )
伊禮 信 ( 沖縄県農業研究センター )
林 久喜 ( 筑波大学 )
科研費研究者番号: 70251022 - ほか
- 発表論文等
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Terajima et al. (2023) Field Crops Research 297https://doi.org/10.1016/j.fcr.2023.108920
- 日本語PDF
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2023_C02_ja.pdf567.03 KB
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2023_C02_en.pdf432.17 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。