葉緑体ゲノム情報に基づくエリアンサス、ススキ、サトウキビの系統分化の解明
エリアンサスおよびススキの葉緑体ゲノムサイズは、それぞれ141,210bpおよび141,416bpであり、イネ科植物に共通の76種類のタンパク質コード領域を含む。これらの塩基配列を用いた系統解析の結果は、サトウキビがエリアンサスよりススキとより近縁であることを示す。
背景・ねらい
エリアンサス(Erianthus spp.)およびススキ(Miscanthus spp.)は、サッカラムコンプレックス(Saccharum complex)と呼ばれる一群のイネ科植物のメンバーであり、バイオマス生産性や不良環境耐性に優れているため、サトウキビの改良のための遺伝資源として、また、バイオエネルギー作物として注目されている。これらの植物種は、サトウキビと同じイネ科キビ亜科に属するが、分類学上、サトウキビと同属とする見解もあり、その分類学的位置づけや近縁種・属との類縁関係には未だ不明な点が多い。葉緑体ゲノムは、塩基配列の保存性が高く、多くの植物種で母性遺伝するため、葉緑体ゲノム内の多型性は個体間の類縁関係や系統進化の解析に有用である。本研究は、エリアンサス(E. arundinaceus)およびススキ(M. sinensis)の完全長葉緑体ゲノム配列を決定し、これらの情報をもとにサトウキビを含めた3種の類縁関係を明らかにする。
成果の内容・特徴
- エリアンサスおよびススキにおける全葉緑体ゲノムサイズは、それぞれ141,210bpおよび141,416bpであり、大きく分けて LSC (large single copy)領域、SSC (small single copy)領域および2つのIR (inverted repeat)領域から構成される(図1)。
- エリアンサスおよびススキの葉緑体ゲノムは、79および78種類のタンパク質をコードする遺伝子(タンパク質コード領域)を含むと推定される(図1)。
- エリアンサス、ススキおよびサトウキビの葉緑体ゲノム配列の比較から、その構造および遺伝子数に大きな違いは認められない(図1)。
- エリアンサスおよびススキを含むイネ科植物に共通の76種類のタンパク質コード領域の塩基配列から推定された各植物種間の遺伝的距離は、サトウキビ-エリアンサス間で1.9±0.3 (10-3)、サトウキビ-ススキ間で0.9±0.2 (10-3)であった。この結果は、既報の核および葉緑体ゲノムの部分配列にもとづく結果と一致しており、サトウキビがエリアンサスよりもススキとより近縁な関係にある。
- エリアンサスは約910万年前にサトウキビ祖先種から分岐したと推定され、エリアンサスがソルガムよりも以前にサトウキビ祖先種から分岐したことを示す(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、バイオマス生産性や不良環境耐性に優れたエリアンサスやススキの分類学上の位置づけやサッカラムコンプレックスの系統進化に関する研究に貢献するとともに、サトウキビ育種のための知見を提供する。
- エリアンサス (Accession No.: LC160130) およびススキ (LC160131) における葉緑体ゲノムの全塩基配列情報は、遺伝子配列データベース (GenBank/EMBLE/DDBJ) から入手可能である。
具体的データ
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LSC: large single-copy、SSC: small single-copy、IRaおよびIRb: inverted repeat aおよびb -
図中の数値は、推定分岐年代を示す。
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 高バイオマス資源作物
- 研究期間
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2017年度(2011~2020年度)
- 研究担当者
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霍田 真一 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
蝦名 真澄 ( 農研機構 畜産研究部門 )
小林 真 ( 農研機構 畜産研究部門 )
見える化ID: 000933高橋 亘 ( 農研機構 畜産研究部門 )
- ほか
- 発表論文等
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Tsuruta S et al. (2017) PLOS ONE, 12: e0169992
- 日本語PDF
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A4 259.34 KB
A3 255.98 KB
- English PDF
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A4 312.85 KB
A3 306.7 KB
- ポスターPDF
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